マル経融資は金利が低いけど審査は厳しい?商工会議所の推薦が必要?
個人事業主の方や小規模事業経営者さんが事業性資金を借りたいと考えるとき、真っ先に思いつく借入先は銀行ではないでしょうか。
しかし、日本政策金融公庫が行っている「マル経融資」なら銀行よりも非常に低金利で、しかも無担保・保証人不要でお金を借りることができるんです。
日本政策金融公庫は日本政府が100%出資している金融機関なので安全性が非常に高いため、借り入れ先としても安心ですよ。
小規模事業者向けの「マル経融資」はどんな時に使えるのか、いくら借りられるのか、申込先は?金利は?審査は厳しいのか?などなど、マル経融資をわかりやすく解説していきます。
マル経融資(小規模事業者経営改善資金)とは?マル経融資制度の概要
マル経融資は正式には「小規模事業者経営改善資金」と言い、日本政策金融公庫が行なっている融資制度のひとつで、商工会議所や商工会などで経営指導を受けている小規模事業者の方が、経営の改善や事業の発展を図るための必要資金を低金利で借りられる国の融資制度です。
マル経融資(小規模事業者経営改善資金)の融資額の上限は2,000万円で、保証人・担保は不要、返済は1~2年間の据置期間を設けることもできます。
▼マル経融資制度の概要
借りたお金の使い道 | 運転資金または設備資金 |
融資限度額 | 2,000万円 |
返済期間(うち据置期間) | 運転資金:7年以内(1年以内) 設備資金:10年以内(2年以内) |
利率 | 1.21% |
保証人・担保 | どちらも不要 |
公式サイト | こちら |
マル経融資で借りたお金は、運転資金または設備資金に利用できるのですが、具体的には以下のような使い道として借りることができます。
運転資金 | 仕入資金、買掛資金、手形決済資金、給与・ボーナスの支払い資金、諸経費の支払など |
設備資金 | 工場・店鋪改装資金、車輌購入、機械・設備・什器の購入費用など |
参考:https://www.tokyo-cci.or.jp/marukei/
マル経融資の特徴
マル経融資と銀行などの融資はどう違うのか、マル経融資の重要なポイントをピックアップしてみます。
詳しい仕組みは後ほど解説していきますので、ここでは「マル経融資にはこんな特徴がある」ということをざっと見ておいてください。
マル経融資は低金利
マル経融資の借り入れ金利は1.21%(令和2年5月24日現在)となっており、非常に低い設定になっています。
※金利は変動することがあります。
日本政策金融公庫は様々な貸付を行なっているのですが、ほとんどの業種の中小企業が利用できる「一般貸付」を無担保・無保証人で利用する場合の金利は2.16%~2.45%になります。
金利に関しては銀行などの他の貸付と比較しても、マル経融資は圧倒的低金利と言って間違いありません。
マル経融資は担保不要
マル経融資は担保不要で借りることができます。不動産をお持ちの場合は不動産の履歴事項全部証明書(登記簿謄本)の提出も求められるのですが、担保とするものではありません。
マル経融資は保証人不要
マル経融資の利用には担保も不要です。最大2,000万円まで借り入れ可能でありながら、担保も保証人も不要なので、非常に優遇されている融資制度と言えるでしょう。
マル経融資を利用するには商工会議所会、商工会会長などの推薦が必要
マル経融資は、商工会議所などで経営指導を受けた方に対して日本政策金融公庫が融資を行う制度なので、正式に申し込みをするには、以下の2つの要件を満たす必要があります。
・商工会議所会頭、商工会会長などの推薦があること
申し込みから融資までには約1ヶ月必要
マル経融資は申し込みをしてから融資が実行されるまでに3週間~4週間程度かかり、場合によっては2ヶ月以上かかることも珍しくないようなので、余裕を持って申し込みを行う必要があります。
マル経融資の要件・利用対象者
マル経融資の申し込み対象者は、以下の要件を全て満たす方となります。
※ただし商業またはサービス業(宿泊業および娯楽業を除く)に属する事業を主たる事業として営む方については5人以下。
▼直近1年以上、商工会議所地区内または商工会地区内で事業を行っている方
▼商工会議所または商工会の経営・金融に関する指導を原則6ヵ月以上受けていて、事業改善に取り組んでいる方
▼税金(所得税、法人税、事業税、都道府県民税等)を完納している方
▼日本政策金融公庫の非対象業種等に属していない業種の事業を営んでいる方
マル経融資の場合、税金の滞納さえしていなければ申し込み要件自体は決して難しいものではありません。
ただ気になるのは「原則6ヶ月以上の商工会・商工会議所の経営指導」の部分ですが、具体的にはどのような指導が行われるのでしょうか。
マル経融資を受けるための原則6ヶ月以上の商工会・商工会議所の経営指導とは?
経営指導は商工会・商工会議所の経営指導員や補助員が、経営相談にのってくれたり経営の役に立つアドバイスを行なったりするものです。
マル経融資は経営改善に取り組みたい事業者を対象にした融資制度なので、6ヶ月間の経営指導のもとで改善が見られたり、改善する見込みがあると判断されたら商工会議所会、商工会会長の推薦を得られて融資に向けた審査を受けられることになるわけです。
6ヶ月の間は、経営指導員による仮審査も兼ねているとも言えますね。
小規模事業者でもマル経融資を受けられない事業があるって本当?
「もしかしたら、自分の商売だとマル経融資でお金を借りられないのでは?」と心配な方もいらっしゃるかもしれませんが、一般的な事業でしたらまず問題ありません。
ただしマル経融資は日本政策金融公庫が行う融資制度なので、「一部の風俗営業・公序良俗に反するもの・投機的なもの」は対象にしていません。
また、マル経融資は小規模事業者向けの融資ということで以下も対象外となります。
・農業
・林業
・漁業
・金融・保険業(保険媒介代理業及び保険サービス業を除く)
・不動産業のうち住宅及び住宅用の土地の賃貸業
・非営利団体
マル経融資 申し込みから融資までの流れ
マル経融資は申し込みをしてから融資が実行されるまでに3~4週間程度かかることになり、決してスピーディな融資は期待できないので、資金が必要な場合はなるべく早く相談しましょう。
なお、マル経融資で実際に融資を行うのは日本政策金融公庫ですが、相談・受付は商工会議所が受けていますので、まずは最寄りの商工会議所に相談をする流れになります。
マル経融資申し込みの手順
マル経融資の概要や必要書類、今後の流れなどの案内がありますので、まずは最寄りの商工会議所に電話で相談をします。
手順2:商工会議所内で審査が行われる
相談を受けた商工会議所では、日本政策金融公庫へ推薦を行なっても良い状況であるかどうかを審査します。
この審査を「マル経審査」と呼んでいます。
マル経審査では書類による審査と面談でのヒアリングが行われることになります。
手順3:商工会議所から日本政策金融公庫へ推薦が行われる
利用条件を全て満たしてマル経審査に通過すれば、商工会議所から日本政策金融公庫への融資推薦が行われることになります。
6ヶ月間の経営指導を受けていないなど条件を満たしていない場合や、現状では推薦は難しいと判断されてしまうとマル経融資の推薦を受けられませんので、今後どうすれば良いのかを改めて相談してみてください。
手順4:必要書類を提出します。
マル経融資の必要書類については後ほど詳しくご紹介しますが、不備があると審査が長くなってしまうので、必ず正しいものを用意してください。
手順5:日本政策金融公庫でマル経融資の審査が行われ融資額などが決まります。
手順6:融資の実行
マル経融資の申し込みに必要な書類
マル経融資の必要書類は、法人・個人で変わります。
・前期・前々期の決算書および確定申告書
・決算後6ヶ月以上経過の場合は最近の残高試算表
・法人税・事業税・法人住民税の領収書または納税証明書
・商業登記簿謄本(履歴事項全部証明書)
・見積書・カタログ等(設備資金の申込みの場合)
・前年・前々年の決算書(または収支内訳書)および確定申告書
・所得税・事業税・住民税の領収書または納税証明書
・見積書・カタログ等(設備資金の申込みの場合)
不動産をお持ちでしたら権利関係が記載されている不動産謄本(全部事項証明書)も必要になります。
他にも追加書類の提出を求められるケースがあり、例えば融資希望額が1,500万円を超える場合は事業計画書も必要ですし、他にも借り入れがある場合は、返済表なども求められることになります。
マル経融資の審査に有利になる材料を考えて資料を用意しよう
これらは最低限必要な書類になりますので、この他にもあったほうが有利になる資料もあります。
例えば、自分が経営している飲食店がテレビで紹介されたことがあるならその時の様子がわかるものであったり、雑誌に載ったことがあるならその部分のコピーなど。
経営指導員を納得させられるような材料になると思えるものは、手間を惜しまずに用意しておくと良いでしょう。
マル経融資の審査は厳しい?何が重要になるの?
マル経融資は公的融資制度だから審査も厳しいのでは?と思われるかもしれませんが、一概にそうとは言えません。
特に銀行などの事業者向け融資は、直近の業績が悪いとそれを理由に融資を断られることもあるのですが、マル経融資はそうではありません。
もちろんマル経融資の審査は甘くはないのですが業績の悪化があったとしても、それは一時的なもので改善に向けた手段が明確であったり、経営指導によって改善の兆しがすでに見えていると判断されれば融資が実行される可能性も高いんです。
マル経融資の審査を受けるには商工会議所の推薦が必要です。
推薦をもらえるかどうかはマル経審査によって決まることになるので、申し込みをしたからといって誰でもすぐに推薦をもらえるわけではありません。
推薦を受けるには事業計画を商工会議所にしっかり理解してもらえることが非常に重要になってくるので、推薦を受ける前から勝負は始まっています。
経営指導員に「この事業計画なら大丈夫だろう」と思ってもらえるように、具体的でわかりやすい資料を用意するようにしましょう。
推薦があれば日本政策金融公庫の審査は必ず通るの?
マル経審査と、実際に融資を行う日本政策金融公庫の審査は全く別物なので、商工会議所からの推薦を受けられたからといって必ず日本政策金融公庫の審査に通るとは限りません。
ただし、商工会議所からの推薦は得られているということなので、日本政策金融公庫の審査はそれほど厳しいものではないようです(もちろん油断はできませんが!)。
商工会議所のマル経審査に落ちる原因とは?
マル経融資を行うのは日本政策金融公庫ですが、その前段階として商工会議所のマル経審査が行われるのですが、さらにその前段階として6ヶ月間の経営指導があります。
商工会議所・商工会では、この経営指導によって経営状態が改善されたか、または改善が期待できるかを判断することになります。
経営状態の改善は返済能力の有無にも繋がりますので、ここのマル経審査は厳しく行われると思っておきましょう。
商工会議所の推薦を受けられるためにできることをご紹介します。
商工会議所の推薦を受けられるためにできること
正確な数字を商工会議所に提出しているか
経営状況を示す資料、経費に関する部分など、数字は必ず厳しくチェックされることになります。
数字を曖昧にごまかしたり隠すようなことをすると、必ず商工会議所に突っ込まれることになり、不透明な部分が解消されなければ審査通過はできません。
また、数字に間違いがないかどうかも必ず確認しましょう。
商工会議所の経営指導員は、「うっかり間違えてしまったミス」と「ごまかそうとした故意の書き間違え」の2つを判断することはできません。
本当にミスだとしても、審査通過のために嘘の申告をしたと思われてしまう可能性も否定できないので、ミスもないように数字は徹底的に見直しましょう。
借り入れ希望額は妥当か
例えば、提出された資料を見れば200万円もあれば十分だと感じられるのに、融資額は500万円を希望しているなど、客観的に見た必要額と希望額に乖離があると不信感を持たれてしまいますので、借り入れ希望額は、本当に必要な金額にすべきです。
希望的観測ではなく論拠はあるか
マル経融資を希望する事業主は、経営状況が非常に良いという状態ではないでしょう。
そのことは融資を行う側も理解していますし、むしろそういった状況から脱却するための制度なので、「現在の経営状態が悪い」というのはそこまで大きなマイナスにはならないんです。
問題は、「経営状態をどう改善するか、または経営指導によってどう改善されたのか」を、論拠を持って説明できるかどうかになります。
ここは非常に重要な部分で、商工会議所の経営指導員を納得させることができなければ推薦を受けることはできません。
たとえば「融資を受けられたら事業が改善される」では、融資が事業改善につながる論拠がありません。
「融資を受けられたら、座席数を増やしてランチのピーク時の来客数を◯%増やせる」ならより理解しやすいですが、これでもまだ足りません。
なぜ◯%増えると考えられるのか、その論拠も別資料で用意して商工会議所に提出すべきです。
非常に難しいことのように考えられますが、決してそんなことはなく、事業の現状をしっかり把握していれば問題点が必ず見えてくるはずです。
そのうえで、ご自分の考えが伝わるような、かつ第三者から見ても納得できるような資料を商工会議所に提出してみてください。
1. 自分が何に困っているのか?
例)座席数が足りずランチのお客さんの取りこぼし多い、この状況をなんとかしたい。
2. 改善するためには何が必要なのか?
例)座席数を増やしたい、店舗を拡張したい、従業員を増やしたいなど。
3. 改善されたらどうなるのか?
例)取りこぼしが◯%減る、回転率が◯%上がる、団体の利用者も見込めるようになるなど、数字の論拠となる資料も用意します。
4. そのために「いくら」マル経融資でお金を借りたいのか?
熱意は必要だけど気持ちだけではダメ
改善に向けた明るい希望はないといけませんが、熱意だけではダメですし、あまりにも楽観的な持論では、マル経審査で無計画と判断されてしまいます。
「立てた計画は実行可能と思えるか、融資を受けることで事業が改善されると思えるか」を客観的に見て、論拠がしっかりして楽観的すぎないことも確認しておきましょう。
面談時の印象も考えてみよう
マル経審査では必ず面談によるヒアリングが行われます。マル経審査をするのは人間なので、当然ながら印象が悪いよりも良い方がいいですよね。
常識の範囲で構わないので「この人にお金を貸すのは不安・・・」と思われない程度にはきちんとした方が好印象です。
返済できる借り入れは全て返済しておく
可能な限りで良いので、返済できる借り入れは全て返済しておいて書類上の数字はなるべくクリーンにしておくのも重要です。
現在の借入額が多すぎると、マル経融資で融資を行っても返済が難しいのではないかと判断されてしまいます。
また、税金の未納・延滞がある方はマル経審査前に必ず払っておいてください。税金の未納・延滞はマル経融資の利用規約に反しますので、申し込みができません。
他にもマル経審査に落ちる理由がある
たとえば、消費者金融から現在もお金を借りている、自己破産などの債務整理をしたことがあるなど、信用情報が良くないとマル経審査の通過は厳しくなります。
これらは返済能力の高さに大きく関わってくる部分なので、マル経融資だけでなく銀行から事業資金を借りる際にも非常に不利になってしまいます。
絶対に借りられないというわけではないのですが、借り入れ件数・借入額は少ない方が有利であることは間違いありません。
まとめ:マル経融資で経営改善をはかろう!
色々細かいことをお伝えしてきましたが、マル経融資はそもそも従業員数20名以下(商業・サービス業では5名以下)の、まさに小さな規模で頑張っている経営者さんを支えるための制度です。
マル経融資について、わからないことがあって当然なので、少しでも気になるならまずは最寄りの商工会議所に相談してみると良いでしょう。
最後にマル経融資のポイントをまとめます。
・マル経融資は非常に金利が低く、無担保・無保証人で金利1.21%で借りることができます。
・商工会議所の推薦を得るには6ヶ月間の経営指導を受けることが必須。
・マル経融資の相談、申し込みは商工会議所で行い、マル経審査に通過したら日本政策金融公庫に推薦してもらえる。
・日本政策金融公庫でもマル経融資の審査が行われる。
・マル経融資の場合、融資実行まで1ヶ月程度かかる(2ヶ月程度かかることもある)。
マル経融資は、非常に金利が低いのですが、有利に借り入れができる分、審査は甘くはありません。
マル経融資の審査通過を目指すなら提出すべき書類は全て揃える、返済できる借金は返済するなど、できる対策は全て行っておくべきでしょう。
マル経融資の注意点としてあげられるのは、融資までの期間が非常に長いという点で、これから経営指導を受ける場合は半年経過しないと申し込み資格すらありません。
マル経融資の申し込みが完了しても早くて1ヶ月、長くなると2ヶ月以上かかってしまうので、緊急時や臨時の繋ぎ融資などには向いていません。
売り上げが短期間で減ってしまった場合の補填なども、マル経融資では厳しいかもしれませんが、計画的に利用すれば運転資金、事業拡大のための資金などに大いに役に立ちます。
マル経融資には、金利が圧倒的に低いという非常に大きなメリットがありますので、小規模事業を行っている方はこういった制度があるということだけでもぜひ覚えておいて、今後の売り上げアップにつなげていきましょう!