債務整理すると退職金は没収される?退職金見込額証明書は必要?
今まで頑張って働いた会社を退職することになったけど、
「債務整理をしたいけど、退職金を受け取ったら回収されてしまいそう・・・」
「退職金をもらったら全額使って借金の弁済をする義務があるの?」
など、退職金と借金返済について気になることもあると思います。
ここでは、債務整理の種類(任意整理・個人再生・自己破産)で退職金がどう変わってくるのか、わかりやすく紹介します。退職金見込額証明書や小規模共済、中小企業退職共済などについても解説します。
債務整理をすると退職金は回収・没収されるの?
会社員の方からすると、退職金は頑張ってきた自分へのご褒美でもあります。
できれば回収されたくはないものですが、結論から申し上げますと債務整理の方法と退職金を受け取るタイミングによっては回収されてしまう、または債務整理後の返済額が上がってしまうことがあります。
「任意整理」をすると退職金はどうなるの?
任意整理は、債権者と債務者の間で任意で交渉を行い、条件を緩和して返済しやすくする方法です。
任意整理で交渉できることは、一般的に将来利息のカットと返済期間の見直し(通常3年、最長で5年)になります。
任意整理は裁判所を通さない任意の交渉手続きになりますので、退職金を弁済に充てなければいけないなどの義務はありません。
例えば、100万円の債務があり、1年後に600万円の退職金を受け取る予定があるとします。
任意整理では退職金600万円の使い道は自由なので、完済するまで毎月3万円ずつコツコツ返済する方向で交渉できますし、最初は退職金を受け取ったら一括返済することを前提に和解交渉するのも自由です。
ただし、定年退職などで退職金を受け取った後に再就職をする予定がない場合は、分割での返済を継続することが困難になることが容易に想像できます。
退職金による返済は義務ではないとはいえ、こういった場合は就業中は分割で返済を行い、退職金をもらったら残債を一括返済する形で交渉することになるでしょう。
退職して収入がなくなったらどうなるの?
任意整理では債務整理の手続きが終了しても3年から5年は返済が継続されることになります。
退職金をもらっても継続して返済ができれば問題ありませんが、退職金を受け取った後は安定した収入がなくなるという場合は、その後の返済が滞ってしまう可能性もあります。
計画的な返済ができなくなり延滞が発生してしまうと、通常は2回の延滞で一括返済を求められることになってしまいますので、返済が遅れることがないようにくれぐれも注意が必要です。
「個人再生」をすると退職金はどうなるの?
個人再生は自分の財産や資産を処分することなく債務整理ができる方法です。
住宅ローン特則が認められればマイホームも失うことはありません。この点は自己破産との大きな違いになります。
個人再生では借り入れ金額に応じて最低限返済が必要な「最低弁済額」が決まっていて、裁判所から認められれば債務を大きく圧縮することができます。
<参考>個人再生の最低弁済額
借り入れ総額 | 最低弁済額 |
100万円未満 | 全額 |
100万円~500万円未満 | 100万円 |
500万円~1,500万円未満 | 5分の1 |
1,500万円~3,000万円未満 | 300万円 |
3,000万円~5,000万円未満 | 10分の1 |
例えば借金が1,000万円の場合は5分の1となる200万円が最低弁済額になります。裁判所から認められた金額を、通常は3年、最長5年で返済していくことになります。
しかし、個人再生において、不動産などのもともと持っている財産・資産や退職金がまったく関係ないのかというと、そういうわけではありません。
個人再生には「清算価値保障の原則」があり、退職金は「清算価値」として扱われることになります。
「清算価値保障の原則」とは?
清算価値保障の原則は、「持っている財産の価値以上の金額は最低限支払いが必要」という個人再生におけるルールです。
清算価値は一定額以上の財産・権利などを売却した時に得ることができる金額を指し、退職金もこの清算価値に該当します。
退職金以外にも、預貯金や不動産なども清算価値として計算することになります。
<参考>清算価値に計上される金銭の種類
退職金 | 今もらえる退職金の8分の1を最低額として計算します ※退職時期によって計上額が異なります |
現金 | 99万円を超える現金 |
預貯金 | 20万円を超える預貯金 |
生命保険 | 解約返戻金の見込額が20万円を超える場合 |
自動車 | 売却価格が20万円を超えるもの |
不動産 | 評価額から住宅ローンを控除した金額 |
その他 | とても高価な家具、電化製品など |
清算価値が高額になり、最低弁済額を超えてしまった場合は、清算価値を返済することになります。
例えば、借金が1,000万円の場合の最低弁済額は5分の1となる200万円ですが、清算価値が230万円だった場合は230万円を返済していくことになるわけです。
なぜ清算価値を計算しないといけないの?
個人再生では財産を処分する必要はないので、本当は自宅や車、生命保険の解約返戻金などの処分できる財産がある人でも、それらを手放さずに債務整理ができることになり、これでは債務者にとってあまりにも都合が良いことになってしまいます。
また、自己破産を選択せざるを得ない人が大きく不利になります。
そこで、財産の処分がない代わりに清算価値保障の原則を設けて、「個人再生でも、せめて持っている財産分以上の返済は行いましょうね」という形で返済額を決めていくのです。
清算価値として計上する退職金はいくら?
個人再生を行うタイミングによっては、退職金をすでにもらっている場合もあれば、近い将来に退職するというケースもあると思います。
これは非常に重要なことなのですが、退職金は退職時期によって計上する割合が変わってきます。
退職時期 | 清算価値に計上する割合 |
退職する予定はまだない | 今もらえる予定の退職金の8分の1となる場合が多い |
・もうすぐ退職する ・退職したけどまだ退職金を受け取っていない |
退職金の4分の1 |
すでに退職して、退職金も受け取り済み | 全額を預金や現金として計上します |
退職する予定がまだない場合
債務者にとってもっとも有利となり、清算価値を減らすことができるのがこのケースです。
裁判所の判断によるのですが、まだ退職をする予定はないけど退職金をもらえることはわかっている(積み立てを行なっている)という場合は、「現在仕事を辞めたと想定してもらえる退職金の見込み額の8分の1(12%)」を計上するケースが多いです。
また、東京地方裁判所では、8分の1として計上した退職金が20万円を超えない場合は、清算価値に含める必要はないとしています。
つまり、現時点でもらえる予定の退職金が160万円を下回る場合は、清算価値に含めないということになりますね。
もうすぐ退職する・退職したけどまだ退職金を受け取っていない場合
もうすぐ退職する場合と、すでに退職しているけど退職金の受け取りがまだという場合は、退職金のうち「4分の1(25%)」を計上することになっています。
すでに退職して、退職金も受け取り済みの場合
すでに退職していて退職金を受け取っている場合は、全額を計算することになります。
厳しいように思えるかもしれませんが、もらった時は退職金という形でも、受け取った後は預貯金や現金という形になってしまうため、全額が清算価値の対象になるのです。
ただし、99万円を超えない現金と20万円を超えない預貯金については、清算価値には含みませんので、必ずしも受け取った退職金全額を計算する必要はありません。
個人再生において、退職金を多く残したい場合は?
今の会社に長く勤めていたり、公務員の場合は、思っていたよりも退職金の額が多いこともよくあります。
個人再生は財産の処分が行われない債務整理なので、実際に退職金が没収されてしまうことはありません。
ただし、清算価値に含まなければならないため、退職金が多いと返済額が多くなってしまうことになり、結果として退職金からの返済が必要になることもあるでしょう。
清算価値として計上する金額をなるべく少なくして退職金を多く残すなら、裁判所から個人再生の認可が下りた後に退職金を受け取れるように調整すると良いでしょう。
退職金の受け取り時期が迫っている場合は、なるべく早めに弁護士などの専門家に相談するようにしてください。
「自己破産」をすると退職金はどうなるの?
自己破産は借金は全額免責にできる手続きですが、マイホーム、車をはじめ、一定額以上の財産は没収されることになります。
没収された財産・資産は現金に変えられて、債権者に分配されることになります。
退職金も資金に該当するため、没収の対象となります。
没収される金額は、個人再生の清算価値と同じで以下の通りです。
退職時期 | 清算価値に計上する割合 |
退職する予定はまだない | 今もらえる予定の退職金の8分の1となる場合が多い |
・もうすぐ退職する ・退職したけどまだ退職金を受け取っていない |
退職金の4分の1 |
すでに退職して退職金も受け取り済み | 全額を預金や現金として計上します |
退職する予定がまだない場合
退職金制度が設けられているけど退職する予定はまだない場合は、現時点でもらえる退職金の見込み額の8分の1を支払うことになります。
見込額が160万円に満たない場合は8分の1の合計が20万円を下回ることになるため没収にはなりません。
もうすぐ退職する・退職したけどまだ退職金を受け取っていない場合
もうすぐ退職するという場合と、すでに退職をしていて退職金の受け取りを待っている状態では、4分の1が没収されることになります。
200万円の受け取りがある場合は、50万円が没収となってしまいます。
ただし、支給見込額の4分の1が20万円に満たない場合は没収されることはありませんので、退職金が80万円未満なら没収はないということになります。
すでに退職して、退職金も受け取り済みの場合
すでに退職金を受け取っている場合は、預貯金または現金として扱われることになるので、全額が没収の対象となります。
ただし、99万円を超えない現金と20万円を超えない預貯金は没収されることはありません。
自己破産ではお金の用意が必要になります
自己破産と個人再生の退職金の扱いについて大きく異なるところは、自己破産においては実際に財産の没収があるため、お金の用意が必要になるところでしょう。
・自己破産における退職金…没収の対象となり、実際に支払いが必要になります
退職する予定がない場合でも、破産手続開始時点で退職金の支給見込額の8分の1が20万円を超える場合は裁判所に報告しなければならず、実際に支払いが必要になります。
自己破産では借金は全額免責とすることができるのですが、退職金は債務者の財産であり借金ではないので免責にはならないのです。
どうやって支払いを行うの?
本来退職金は、退職した後にもらえるものです。
退職金という性質を考えると、破産管財人が勤務先の会社に直接請求するか、実際に退職をして受け取ってから支払いに充てるということになりますが、そんなことをしてしまっては債務者が大きく不利になり、会社にいられなくなってしまいます。
しかし、もらっていない退職金を支払うことはできませんし、退職金の前借りというのも難しい話です。
それでも必要な金額は確保しなければ手続きを進めることはできません。
では、どうやって支払いをするのかというと、一般的には、実際の退職金には手をつけずに、算出された必要な金額を預貯金などで調整して支払うのが一般的です。
「退職金見込額証明書」について。退職金の見込み額はどうやってわかるの?
個人再生と自己破産では、退職金の支給見込み額を計算する必要があるため、勤務先に「退職金証明書」を発行してもらわなければなりません。
退職金証明書の発行そのものは簡単で、勤務先の経理の方などにお願いすれば手続きを行ってもらえます。
ただ、こういった滅多に必要のない書類を出してもらうということで、会社から「何に使うんですか?」「提出先はどこですか?」と怪しまれてしまうこともあるでしょう。
債務整理をすることを勤務先に伝える必要はないので、聞かれた時の対策を考えておくと慌てずに対応することができます。
住宅ローンなどの審査に退職金見込額証明書が必要ということにする
教育ローンや住宅ローンの審査に、退職金証明書を求められることは実際にあります。
こういったローン審査を受けるということにして、発行してもらうというのはおすすめできる方法です。
実際、住宅ローン審査などは収入や仕事の形態などで必要書類が人それぞれ異なることはよくあります。
ローンに申し込みをしたかどうかなどは勤務先に報告する必要はありませんので、「今度、住宅ローン審査(教育ローン審査)を受けることになって、提出が必要みたいなんです」などと伝えればスムーズに発行してもらうことができるでしょう。
自分で退職金の見込み額を計算する
退職金には会社の規定があるので、この規定に基づいて自分で計算することで現時点での退職金を算出して、退職金見込額証明書を作成することも可能です。
裁判所によっては会社が作成した退職金証明書が必要なこともあるので弁護士・司法書士への確認が必要ですが、この方法でも良いようであれば勤務先にお願いすることなく退職金証明書を自分で作ることも可能です。
なお、会社発行の退職金見込額証明書が必要な場合に、自分で作ったものを会社が発行したものと嘘をつくことはやめておきましょう。
裁判所に虚偽の書類を提出してしまうと、個人再生・自己破産が認められないこともあります。
債務整理したら小規模共済、中小企業退職共済などはどうなる?
会社で中小企業退職共済に加入していたり、個人事業主の方などは小規模共済に加入していて退職金を用意しているケースもあると思います。
これらは個人再生で清算価値になることもありませんし、自己破産で没収されることもありません。
一般的な退職金ではなく、法律上の差押え禁止財産となっていて、破産手続では全額が自由財産として扱われるため没収の対象にはならないのです。
・中小企業退職共済制度による退職金
・小規模企業共済制度による退職金
・確定拠出年金(DC)
・個人型確定拠出年金(iDeCo)
・確定給付企業年金(DB)
・厚生年金基金
債務整理と退職金のまとめ
債務整理における退職金の扱いは、債務整理の方法と退職金を受け取るタイミングで変わってくることになります。
▼任意整理と退職金
任意整理では、退職金による返済は自由に行うことができます。
退職金による返済は義務ではありませんので、弁護士・司法書士と相談して、無理なく返済していける金額・返済期間で交渉を進めることになります。
ただし、定年退職で退職金を受け取った後に安定した収入の見込みがない場合は、退職金による一括返済を求められることもあります。
▼個人再生と退職金
個人再生は財産の没収や強制執行がない手続きなので、退職金を没収されてしまうことはありません。
ただし、返済額を算出するために現時点でもらえる退職金を「清算価値」として計上することになります。
退職時期 | 清算価値に計上する割合 |
退職する予定はまだない | 今もらえる予定の退職金の8分の1となる場合が多い |
もうすぐ退職する・退職したけどまだ退職金を受け取っていない | 退職金の4分の1 |
すでに退職して、退職金も受け取り済み | 全額を預金や現金として計上します |
清算価値の合計が最低弁済額よりも多い場合は、清算価値分の返済が必要になります。
退職金をより多く残すには、個人再生の認可が決定してから退職金をもらうように進めることが重要です。
▼自己破産と退職金
自己破産では、退職金も処分の対象となります。処分する割合は、個人再生の清算価値の考え方と同様です。
ただし、自己破産においては退職金も実際に処分されることになるので、退職金をまだ受け取っていなくても支払いの用意が必要になります。
実際に退職金を会社に請求して支払いに充てることは難しいので、一般的には退職金に手をつけることはなく他の方法で現金を用意して支払うことになります。
例えば、預貯金、現金を調整して退職金の没収額に合わせる、生命保険を解約して解約返戻金で支払うなどの方法があります。
なお、次の資金は退職金として没収されることはありません。
・小規模企業共済制度による退職金
・確定拠出年金(DC)
・個人型確定拠出年金(iDeCo)
・確定給付企業年金(DB)
・厚生年金基金
借金の返済が必要とはいえ、退職金はこれからの生活を支える大切な財産です。
なるべく多く手元に残すためには、「はっきりと退職する予定を立てる前」に債務整理に向けて動き出すことが非常に重要です。
少しでも退職を検討していたり、定年退職の時期がわかっている場合は1日でも早く専門家に相談してより良い解決方法を提案してもらいましょう。
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