中小企業の「番頭」を育てる新資格「中小企業BANTO ®」とは?~全国経理教育協会インタビュー
公益社団法人全国経理教育協会 新規PJチーム 中野貴元さん
中小企業の経営を担う人材の育成を目的とした新たな資格「中小企業BANTO認定試験(以降 BANTO)」が、2020年からスタートします。
「BANTO」を主催するのは、昭和31年に設立され簿記や計算実務、税法など経理・財務を対象に能力検定試験を実施していてきた団体、公益社団法人全国経理教育協会(以降、全経)です。
長年経理教育の普及に尽力してきた全経がスタートさせる「BANTO」とはどのような資格なのでしょうか? また、中小企業の人材育成にフォーカスする意義とはなんでしょう。
「BANTO」の概要について検定管理課の中野貴元さんにお話をうかがいました。
変化する経営環境のなかで、“お金のプロ”を育成する
「BANTO」の概要について教えてください。
「BANTO」は,中小企業における総合的な経営管理スキルを持った幹部社員の育成を目的としています。
認定試験の出題範囲を見ていただくのがわりやすいでしょう。全部で5教科あって、「分析及び評価」、「会計及び財務」、「税法」、「経営法務」、「ビジネスコミュニケーション」となっています。会計・財務の知識を主軸に,ビジネスに必要な法律やコミュニケーション、マナーなどの知識を身につけた人材を認定する資格です。
当協会はこれまで、主に簿記や各税法、電卓など、専門家育成として深掘りしていくような検定を展開してきたわけですが、「BANTO」は各分野を横断する総合力を問う内容になっています。
中小企業の人材育成を目指した検定を開始する理由は?
現在、日本全国に中小企業は359万社あるとされています。全企業数の99.7%、労働者人口でも全体の70%を占めるわけですから、間違いなく日本の経済の根幹を支える存在です。
中小企業を取り巻く環境は大きく変化しており、厳しさを増しています。経営者の高齢化と後継者不足、倒産にもつながるほどの人手不足などの問題は皆さんもご存じだと思います。
他にも、下請け構造からの脱却、資金調達形態の変化など、課題は山積みです。
これまでは通用していた経営者の経験やカンだけでは、乗り切ることは難しくなっており、ビジネスや会計に明るく、次世代の経営を担える人材が強く求められているのです。
検定で中小企業の人材育成をサポート
中小企業での人材育成はどのように行われているのでしょう。
会社によっても差があるのですが、多くの中小企業では教育体制が整えられているとは言いがたいのが現実です。
現実的に、しっかりとした研修制度や育成の仕組みを、中小企業が独自に整えて運用していくことは難しいのです。
経営理念とか経営計画とか重要だとは思うけれど、今は目の前の仕事で精一杯、というのも本音でしょう。
確かに、しっかりとした教育体制を整えるのは難しいそうですね。
中小企業の人材育成を支援するのも「BANTO」を立ち上げる大きな目的の一つです。
中小企業は少人数で運営されていますから、大企業のように専門的な人員を揃えたチームを作り事業に当たる、という形態はとれません。
一人で何役も果たさなくてはならないのです。そのため横断的な分野の教育が重要になるわけですが、そんな研修制度を整えることは難しいですから現場で経験から学んでもらうことが中心になります。
そこで、総合的な性格な知識やスキルを身につけることができる「BANTO」と認定試験に合わせた教材や講師など支援体制を整えていきたいと考えています。
社長が経営のすべてを行っているという会社も多いのでは?
社長自らが経営、経理、対外との交渉などすべて担当していて、従業員は一切経営管理には関わらない、という会社は確かに少なくありません。
経理や法務は税理士さんや弁護士さんにお任せしているのでわからない、という社長もいらっしゃいますし、社長の経営が経験から積み上げられた独自性の高い手法で第三者が介在しにくい、という場合もあります。
このような会社は、順調な時は良いのですがトラブルが発生すると、問題がより大きくなる傾向があります。
社内に経営管理の教育を受けていて、問題の本質は何か、自分の会社の強みは何か、今後どうすればいいのか、などを考えることができる社員がいれば、問題解決に貢献できますし、会社の体力や競争力に強化にもなります。
現代の中小企業経営者のほとんどは、人材育成を前向きに捉えていると思いますね。
近年、注目されている事業承継でも、経営管理スキルを持った“お金のプロ”の有無は成否に影響を与えそうですね。
経営者の高齢化と後継者不足の問題は深刻です。現在の中小企業経営者の山の部分は65歳を超えており、小規模事業者に至っては70歳以上です。
「中小企業白書」でも、事業は順調でも後継者がおらず廃業する経営者が増えているとされ、政府与党を中心に事業承継政支援策が打ち出されていますが、税制、技術承継、営業承継重視で「経営管理」面は手薄になっています。
社内に経営管理全般を学んで、客観的に経営の実態を把握している人材がいれば、事業承継もスムーズに進むはずです。専門家に任せるべきところは任せるべきですが、自分の企業の価値や強みと弱みなどを、真に理解しているのは従業員が一番ですから。
「BANTO」は企業で働くすべての人に役立つ資格
ホームページの受験を勧めている方には、ビジネスパーソン、金融機関や学生など、幅広い方たちが上がっています。
「中小企業」と銘打ってはいますが、「BANTO」には経営管理に必要なエッセンスがすべて入っています。経営について学んでいる学生の方から、経営センスを磨きたいビジネスマンまで、働いている方すべてに有益な資格だと考えています。
そのため、受験資格に制限はありません。国籍や職歴を問わず、どなたでも受験することができます。
例えば大企業の従業員には専門性が求められることが多く、よく経営者の感覚を持てと言われると思いますが、実際に経営全般についての知識を得られる機会は少ないのではないでしょうか。
「BANTO」で経営管理の知識を総合的に学ぶ意味は大きいと思います。
大企業は中小企業のスケールを大きくして複雑化したものです。大企業でも有効活用することができます。
金融機関の方にも「BANTO」を勧めています。理由は何でしょう。
近年、金融機関では融資限度額などの指標をプログラムで判断することが多くなっていると言われます。
計算書を読み込むと自動的にスコアリングされて融資限度額が示されると聞きます。
この傾向が進むと、融資担当者が決算書を読み込んだり、中小企業の実態を深く知る必要や機会は減っていくように思われます。
中小企業の融資を担う金融機関は中小企業の伴走者です。「BANTO」を活用して、中小企業の経営への知見を深めて、よりよい支援をお願いしたいと考えています。
「BANTO」という名称に込めたメッセージ
「BANTO」という名称はユニークです。商家の「番頭」ですよね。
「BANTO」の準備段階では「中小企業CFO」が有力だったのですが、権利関係の問題で使えませんでした。
その頃、関係省庁や関連団体に「こういう検定を立ち上げたい」と相談していたとき、 いろいろなところで「中小企業の番頭さんですね」と言われました。
「番頭」は、江戸時代の商家においては、お店の責任者でいわゆる支配人、旦那さんを補佐するナンバー2。
「BANTO」の考える中小企業の経営を担う人材のイメージにぴったりです。「番頭」が最有力候補になりました。
「番頭」が「BANTO」になった理由は?
委員会では好評だったのですが、若い人たちに「番頭」と言ってもなかなかピンと来ない。時代劇にはよく出て来ますが、最近はテレビ放送も少なくイメージできないのです。
そこである委員から「Business Accounting and Total Officer」のアルファベットを取って「BANTO」ではどうか、という案が出ました。
英国の会計士の方に確認したところ、きちんと意味が通じるということで、国際展開も視野に入れて「BANTO」に決定しました。
「Total Officer」なんですね。
そこがポイントですね。経理だけではない、総合的な管理者能力を育成する検定ということが表現されていると思います。
「BANTO」と聞いて、番頭さんを思い浮かべていただいてもいいし、「Business Accounting and Total Officer」でもかまいません。ビジネスに役立つ経営管理能力を認定する資格であるということをイメージしていただければありがたいですね。
受験対策はテキストやサンプルなど豊富に用意
受験対策はどのようにすればいいですか?
「中小企業BANTO認定試験公式テキスト」(中央経済社刊 定価:本体2,000円+税)
まず、全教科をカバーした「公式テキスト」をご利用ください。全国の書店や通販で購入できます。ホームページからは、200問以上あるサンプル問題をダウンロードできます。
解きごたえがあると思いますので、ぜひ体験してみてください。ほかにも、eラーニング教材も準備中ですので、しっかりと準備をして試験に臨むことができると思います。
また、「公認講師」の認定も行っています。「BANTO」に基づいた講義を行うことができるので、企業、教育機関等での研修などでご利用ください。
受験を考えている皆さんにメッセージをお願いします。
ほども申し上げましたが、企業内で働く人、働こうと考えている人、すべての方々に役立つ検定です。今後とも、全経の会員である専門学校の協力も得て、より勉強しやすい環境をしっかりと整えていきます。
将来的には、さらに上位の資格も開設し、中小企業の競争力だけでなく、日本の経済全体の競争力向上につながる資格に育てていきたいとと考えています。
ご興味のある方は、ホームページで試験の概要やサンプル問題をご覧ください。皆さんのビジネスに役立つことがご理解いただけると思います。よろしくお願いします。
中小企業BANTO認定試験® | |
試験日 | 第 1 回試験日 2020年 9月 27日 (日) 第 2 回試験日 2021年 1月 17日 (日) |
受験資格 | 年齢,学歴,国籍等の制限なく誰でも受験することができます。 |
受 験 料 | 初級 3,000円(税抜) ※ 上級試験も準備中です |
試験会場 | 全国各地(受験申込時に選択できます) |
申し込み | ホームページより申し込み方法を確認ください |
主催 | 公益社団法人全国経理教育協会 |
事務局 | 〒170-0004 東京都豊島区北大塚1丁目13番12号 公益社団法人 全国経理教育協会内 TEL. 03-3918-6131 FAX. 03-3918-6196 |
ホームページ | https://banto.gr.jp/ |
取材日:2019年9月18日