海外移住が進む富裕層の相続税対策・事業承継事情~木田穣税理士インタビュー

木田穣税理士事務所 代表税理士・公認会計士 木田穣氏

会社オーナー、地主、医師などの資産家を対象に、相続対策を視点に加えた顧問業務を提供している木田穣税理士事務所。

代表税理士・公認会計士の木田穣氏は、日本の相続税は諸外国と比較して高く、一部の富裕層が海外に移住する現状があると警笛を鳴らす。

日本には多くの親族会社があるが、相続や事業承継の際には、高い相続税率などの課題も大きい。

また、代表者には見えないリスクもあるという。相続が発生する前から相続のプロの税理士と相談すれば、隠れたリスクも顕在化できる。

相続税と事業承継の問題について、木田税理士にお話を伺った。

東大から公認会計士・税理士の道へ

木田さんは東京大学経済学部卒。官僚への道もあったと思いますが。

自分の中に、官僚や会社勤めよりも自身がビジネスオーナーになりたいという気持ちがありました。経済学部出身ですから、当然、経済やお金の流れに興味がありましたので、大学時代に公認会計士の資格を取得し、その後、税理士の登録を行いました。

私は2004年卒業組ですが、その時点で官僚になる学生は少数派で、法学部では、弁護士や会計士など手に職となる資格を取得する学生が多かったですね。

公認会計士業務は、社会のインフラです。具体的には上場会社等の会計監査を通じて証券市場の公平さを保つインフラを担いますが、クライアントは大企業中心です。

一方、税理士は、中小企業、場合によってはごく親族だけで行っているファミリー企業の方にお役に立てます。

直接喜ぶお顔を見ることができる税理士の方に、やりがいを感じました。実際、雇われの経営者でなく、オーナー兼経営者のお客様が多いです。

この方々は、雇われの経営者と異なり、ご自身の懐具合と会社が直結していますから、ビジネスに対して真剣度が違うと実感しています。

「オーナー兼経営者も相続や事業承継を迎える時に来ている」(木田氏)

親族会社では相続と事業承継の両面の悩みも

日本の親族会社ではオーナーが高齢化し、相続と事業継承の両方の問題を抱えています。

本事務所のお客様は、すでに非上場株式を売却されている元オーナーの方が多いです。すでに現金化した後なので、日本の相続税制の中で家族の財産をどう守るかということに関心が移っています。

一方、ちょうど団塊の世代の方々も70歳を超えて引退に差しかかる中で、事業承継と相続税対策をセットで相談したいというニーズもとても高まっています。

具体的にどのようなアドバイスをされていますか。

具体的には、たとえば不動産の購入や、ご子息の経営する法人への出資等、財産構成を変化させる場合において、前後の相続税を試算して最も合理的な方法を助言します。

たとえば、購入された不動産を第三者に賃貸する場合や自前で利用した場合のそれぞれに応じて、将来の相続税がどのように変化するかをお示しした上で、お客様にご判断いただきます。

また近年、非上場株式を売却された元オーナーの中には、海外への移住を検討される方もいらっしゃいます。

今もちょうど、創業家が非上場株式を売却して現金を手にし、今後シンガポールでビジネス展開をされるお客様のために、シンガポールのビザ取得を代行する現地の業者と連携して移住に向けた調整をしているところです。

こうしたことの背景には、日本の高額な所得税・相続税があると思います。とくに相続税については多額なキャッシュを相続しようとすると日本の相続税率はとても高く、富裕層を中心に、このままでは自分の資産を守れないと考える方もいらっしゃいます。

相続税の最高税率55%が移住の理由に

そんなに簡単に移住できるのでしょうか。

シンガポールなどに移住するというと、「長い間ずっと日本に住んできて、英語も話せないのに、移住できるわけがない、税制改正があり、税制メリットも享受できないのではないか」と反対する意見もあります。

たしかにシンガポールの言語は英語と中国語ですが、日本人も多く、日本人医師も常駐しています。

生活するにあたって最低限の英語は確かに必要ですが、60代~70代の方でも抵抗なく移住される方もいます。

また、近年の税制改正を考慮しても、まだなお海外移住による税務メリットは大きいと考えています。

また、これは実際に海外移住のサポートをしていて気づいたことですが、富裕層がお付き合いされている証券会社、税理士、金融機関などのステークホルダーの方は、通常、海外移住をあまりお勧めしません。

これは、富裕層が日本にいるからこそ顧客になってくれるので、もしシンガポールなどに移住されてしまうと、顧客がいなくなってしまうことになりますので仕方がないと思います。

とはいえ、お客様のリタイヤ後の生活スタイルやご家族構成など、ケースによっては海外移住を行った方がお客様のご要望に沿うこともありますので、そのような場合はお客様の海外移住というご要望にできうる限りのサポートを行います。

相続税の最高税率は55%です。

ある富裕層の方は、「今まで頑張って築いてきた財産の55%も国に召し上げられるとなると、何のために子供のために一生懸命働いてきたのか分からない」と語っていらっしゃいました。

たしかに現在の相続税率を考えると、そんな気持ちになるのも自然かもしれません。

日本の税理士として国の財政面を考えると、私も富裕層の海外移住については危機感を持っています。

日本の相続税制を持続可能なように微調整してほしいと思います。

事務所内は整然としていた

相続税は具体的にどのくらいのかかるのでしょうか。

たとえば東京と埼玉に不動産があり、預金がある程度あり、総資産が不動産含めて3億3,000万円で、配偶者がいらっしゃらず、お子さんが2人とします。

そうすると相続税はトータルで8,000万円弱になります。8,000万円のキャッシュが必要になります。

当事務所に相続税申告をご依頼いただいたお客様も、相続税を計算してみると、皆様が「相続税って高いのですね」とおっしゃいます。やはり、相続前から相続税に対する備えは必要です。

事業承継についてはいかがですか。

今、財産の管理や移転・処分を目的に家族間で行う民事信託や、将来の財産管理や身の回りのことについて、その人に何を支援してもらうか、自分で決めておくことができる任意後見について積極的に提案しています。

また、事業承継税制などの様々な税制面から、円滑な後継者の承継等について提起しています。

誰が継ぐのか、また継いだ時に他の相続人の相続をどう手当てするのか、といった議論がされないまま相続を迎えることがあります。

事業承継計画の議論が不足しているのです。

たとえば資産所有会社を設立する場合、当初の設立の段階で、将来的にA法人は長男、B法人は長女に相続させると決めておけば、将来の相続の際に遺産の分け方を検討する必要がなくなります。

実際には資産を法人化する際、相続まで考えるエネルギーがありません。資産所有会社を作ったものの、いざ遺産分割を考えると、株式をどのように分けたらよいのか途方に暮れてしまうケースも散見されます。

こう考えますと、資産形成を始める30代のうちからでも、事業承継を見すえて考えを巡らせた方がいいと私は提案しています。

私はいろんな失敗事例を見てきておりますので、たとえ30代であっても事業承継と財産相続に対して、計画的に考えるべきと話しています。

長男が社長を継いでも株は相変わらず親の会長が保有しているケースもありますね。どちらも代表取締役であるような場合、どうなりますか。

ある年齢になったら、後継者に株と経営を併せて移譲すべきです。

先代に「まだまだやれる」という意思があると、所有と経営をあわせて承継してくださいと税理士が提言しても、感情的な部分からすんなりとは進まないことがあります。

そんなときは税理士として弊害や副作用を具体的な事例をあげて丁寧に説明します。

また、所有と経営を移譲しても、創業者が会社に来て部下にいろいろな指示を出したりして、後継者が困惑するようなケースもあります。

感情的にはやはり後継者に頭が上がらないという面もあり、そんな場合は弁護士や税理士にできることは限られてしまいます。

富裕層の相続は税務調査に狙われやすいですね。そのあたりは。

基本的には、顧問先の法人のみならず、顧問先オーナー個人の資金の流れについても記録しています。

税務調査が入った時には、最長5年~10年間の資金の流れを見て、無申告の贈与があるか、相続の際の計上漏れがないかといったことを確認されます。

生前から資金の流れを整然と記録し、合理性をもって税務署に説明できる体制を整えることはとても大事です。

ただし、法人については帳簿で資金の流れの記録がしっかりしていても、オーナー個人の資金の流れがブラックボックスになっていることは多々あります。

そこは資金の流れの記録の重要性についてしっかりと顧客に説明し、対策を打っています。

税務調査はこの金額であれば狙う

感覚的に、税務調査官はいくらぐらいから狙ってくると思いますか。

明確な根拠はありませんが、預貯金などの金融資産が1億円を超えると、規模感覚では大きいと勝手に思っています。

法人では、やはり相続がからみますが、総資産が3~4億円あれば重点的に対策を打つべきです。

相続税・相続対策に一番関心があるのはお子さんですが、お父さん、お母さんに真正面からそれを言うと、「財産を狙っている」と激怒されてしまうケースもあります。

そういうときには税理士を連れてきて、今のままだと様々なリスクがあるということを見える化することで、理解してもらえるケースもあります。

不動産が多く、一見健全に見える会社でも、代表が10億円をその会社に貸し付けていると、相続した場合にその貸付金に相続税がかかってしまうケースがあり、キャッシュが足りずに泣く泣く自宅を手放さざるを得ないということもあります。

親族経営にはそうした潜在的なリスクが隠れているのです。

相続に強いプロの税理士なら、現状をヒアリングして、お客様が認識していないリスクをポイントアップできます。そういった情報を提供すれば、相続が発生した時に、骨肉の争いを避けたいという気持ち、ご子孫に相続税制上有利な方法で財産を残したいという自然な気持ちも生まれます。

皆さんに納得していただいて、奇麗な形での相続や事業承継ができるよう日々頑張っています。

事業所名 木田穣税理士事務所
所在地 〒151-0066 東京都渋谷区西原3-1-4トライアングルビル2F
事業内容 相続税申告業務/資産家向け顧問サービス、公益法人の顧問業務、医師・医療法人の顧問業務
電話 03-5843-5949(総合受付 平日9時~18時)]
FAX 03-6730-9749
ホームページ https://www.wbj-tax.com/

取材日:2019年9月18日

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