教育資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税措置について詳しく教えて!
1.はじめに
我が国の年代別の金融資産は年配層に偏っているといわれています。事実、2018年に総務省が行った家計調査によると、40代の貯蓄額が平均1012万円なのに対し、60代は2327万円となっています。(2018年「家計調査報告」)
この世代間の格差をなくし、再配分しようとする制度の一つに「直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の非課税措置」という税制優遇措置があります。
2.制度概要
平成25年4月1日から令和3年3月31日までの間に、30歳未満の子や孫などの直系卑属に対し、教育資金に充てるため、金融機関等に専用の口座を設定し、そこにお金を預けることで子や孫などが教育資金として活用することにより、その贈与した金額のうち1500万円までが非課税となる制度です。
祖父母が孫に教育資金を贈与するとしましょう。
通常贈与を行う場合、基礎控除である110万円以上の金額の贈与を行うと贈与税が発生します。贈与税の最低税率は10%であり税額は小さくありません。
このとき、教育資金の一括贈与制度を活用し、孫の名義で金融機関に専用の口座を作り、祖父母がその口座に入金し、教育に関する費用をその口座から引き出して使うことにより、1500万円まで贈与税が非課税となるのです。
3.要件
まず、贈与した金銭の使途が教育資金でなければなりません。その教育資金と認められるための要件は以下に当てはまるかどうかで判断されます。
(1)学校等に対して直接支払われるもので次のようなもの
①入学金、授業料、入園料、保育料、施設設備費又は入学(園)試験の検定料など
②学用品の購入費、修学旅行費や学校給食費など学校等における教育に伴って必要な費用など
③教育(学習塾、そろばんなど)に関する役務の提供の対価や施設の使用料など(2)学校等以外の者に対して直接支払われる次のような金銭で教育を受けるために支払われるものとして社会通念上相当と認められるもの
④教育(学習塾、そろばんなど)に関する役務の提供の対価や施設の使用料など
⑤スポーツ(水泳、野球など)又は文化芸術に関する活動(ピアノ、絵画など)その他教養 の向上のための活動に係る指導への対価など
⑥③の役務の提供又は④の指導で使用する物品の購入に要する金銭
⑦②に充てるための金銭で、学校等が必要と認めたもの
⑧通学定期券代、留学のための渡航費などの交通費
上記のうち(1)の非課税枠は1500万円、(2)についての非課税枠は500万円までとされています。
ここで問題となるのはどこまでが上記の教育資金に当てはまるのかということでしょう。まず、「学校等」とは幼稚園や認定こども園、保育所、小・中学校、高校、大学、外国の教育施設などが該当します。
(1)は学校等に直接支払うものですので、あまり問題となる余地はありません。問題となりやすいのは(2)の学校等以外の者に対して支払う金銭についてです。
ここには学習塾の授業料や習い事なども該当します。ただし、2019年7月以降、習い事の場合23歳以上の人には非課税の対象外となったため、大学卒業までに非課税枠を使い切らなかった場合に卒業後習い事のために使うといったことが難しくなっています。
ただし、教育訓練給付制度の対象となっている資格の専門学校の授業料などは本制度の対象となっていますので、資格取得のために活用することは可能です。
次に教育資金口座の開設が必要です。そのうえで、教育資金非課税申告書を、口座開設を行った金融機関の営業所を経由して贈与を受けるもの(受贈者)の納税地の所轄税務署長に提出しなければなりません。
また、教育資金口座から払い出しを行ったり、教育資金の支払いを行ったりした場合、口座開設時に選択した払い出し方法に応じて、領収証などの支払いの事実を称する書類を金融機関の営業所に提出しなければなりません。
4.教育資金口座の契約が終了する場合
教育資金口座にかかる契約は次の事由に該当した場合にそれぞれの定めるいずれか早い日に終了します。
(1)受贈者が30歳に達した(受贈者が学校に在学している、または、教育訓練を受けていてそのことを金融機関に届け出た場合場合を除く)…30歳に達した日
(2)受贈者が30歳以上で、その年中に学校に在学した日または、教育訓練を受けた日があることを金融機関に届け出なかった…その年の12月31日
(3)受贈者が40歳に達した…40歳に達した日
(4)受贈者が死亡した…死亡した日
(5)口座残高が0になり、かつ、口座にかかる契約終了の合意があった…終了すると定めた日参考:国税庁
5.本制度の活用方法
幼稚園から大学までの教育費の平均は以下のようだといわれています。
(1年あたり)
公立 | 私立 | |
幼稚園 | 23万円 | 48万円 |
小学校 | 32万円 | 153万円 |
中学校 | 48万円 | 133万円 |
高校 | 45万円 | 104万円 |
大学 | 110万円 | 176万円 |
高校まで公立に通い、私立大学に入学した場合、1221万円必要となります。大学で一人暮らしした場合はその費用も掛かりますし、学部・学科によってはもっと学費が高くなることもあります。
もちろん、預貯金や、資産運用、学資保険や奨学金の活用など教育費の準備の仕方はいろいろあります。
祖父母の資金が潤沢にあるということであれば本制度の活用を検討してもよいでしょう。
この制度の最大のメリットは要件を満たせば1500万円の贈与に対する贈与税が非課税となる点です。
通常の暦年贈与で1500万円贈与すると、約400万円の贈与税が発生しますので、かなりの効果があります。
しかし、この制度を活用する目的はほかにもあります。
相続税法の改正で2015年より相続税の基礎控除の額が大幅に引き下げられました。
以前は5000万円+法定相続人の数×1000万円とされていた基礎控除が、3000万円+法定相続人の数×600万円となり、相続税が発生する対象者が大幅に増えたといわれています。
相続税対策の一つは、生前に相続人に対し財産を引き継ぐことです。そのため、生前贈与をしたり、不動産の評価を下げたりといった方法をとることも多いのですが、1500万円を非課税で贈与できるというのは相続税対策としてとても有効です。
また、通常の贈与だと、贈与を行った祖父母などの相続が贈与から3年以内に発生した場合、その祖父母の相続開始前3年以内に相続人が受けた贈与については、その贈与により取得した財産を相続税の評価に加算して相続税を計算することになっています。
つまり、なくなる前3年以内に贈与を行うと、贈与税の非課税枠110万円以内で贈与税は非課税となったとしても、相続税の評価額に加算することになるのです。
しかし、本制度を利用した場合、それから3年以内に相続が発生したとしても、一定の要件の下では相続税の課税価格の加算対象とはなりません。
5.本制度を利用する場合の注意点
教育資金の一括贈与の非課税制度は便利な制度ですが、以下のような注意点があります。
(1)使いきれなかった場合、その分に対して贈与税が発生する
本制度で贈与された財産は教育資金にのみ利用することができます。他の用途で利用した場合、贈与税の対象となりますし、本制度で贈与された財産を使い切れなかった場合には、その使いきれなかった分に対して贈与税が課税されます。
(2)受贈者に所得要件がある
受贈者の前年の合計所得額が1000万円を超える場合、本制度の新規契約や追加贈与を行うことはできません。
(3)教育資金として使用した証明が必要
教育資金として贈与資金を使用したことを証明するために、金融機関に領収書を提出する必要があります。
(4)わざわざ本制度を使う必要がないケースがある
(3)の述べた通り、教育資金の払い出しには毎回領収書の提出が求められます。しかし、そもそも年間110万円までの贈与であれば、本制度を利用しなくても贈与税は課税されません。
そのため、わざわざ本制度を利用する必要がないケースもあるかと思います。暦年贈与であれば資金の使途も限定されず、領収書の提出も求められませんので、煩わしい手続きが不要であるというメリットがあります。
<6.まとめ>
本制度は祖父母世代から子・孫世代への資産の再配分を円滑に行うことができる上に、相続税対策として活用することができます。
祖父母の資産状況も考慮して、家族の健全なライフプランの作成と遂行に役立てるために選択肢の一つとしてぜひとも検討したい制度だといえるでしょう。
志塚行政書士FP事務所 代表
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<保有資格>
行政書士 CFP・1級FP技能士 宅地建物取引主任者 管理業務主任者 マンション管理士 証券アナリスト協会検定会員補 ビジネス法務エキスパート®