パートで働く前に知っておきたい103万、106万、130万、150万円の収入の壁
パートで働くなら無視できない「収入の壁」、働き損にならずに効率よく稼ぎたいパートにとっては悩ましい壁です。
「壁を超えると損すると聞いたから」というのは、働き方に悩む方からの相談でよく耳にするフレーズですが、これらの壁がどういう壁なのか、自分が気にすべき壁はどれなのか、きちんと理解している人は少ないのが現状です。
自分にふさわしい働き方を選ぶためにも「収入の壁」の違いを知っておきましょう。
「収入の壁」とは?その種類と特徴を整理しよう
ここでは夫が会社員で妻がパートタイマーの場合で考えてみましょう(※)。
「収入の壁」には、税金上の壁と社会保険上の壁があります。
税金上の壁は、妻の収入(実際は合計所得金額)によって、夫の税金の計算上受けられる控除が変わる壁で、103万円や150万円は税金の壁と呼ばれています。
社会保険上の壁は、妻が夫の社会保険の扶養からはずれて自分で社会保険に加入することになる壁で、106万円や130万円が該当します。
「税金上の収入の壁」「社会保険上の収入の壁」について、もう少し詳しく見てみましょう。
(※) 夫:年収1,120万円以下(合計所得金額900万円以下)、妻:70歳未満、夫婦ともに給与収入のみ
■103万円
妻の収入が103万円以下の場合、夫は「配偶者控除」として38万円の所得控除(所得税の場合・住民税は33万円)を受けられます。所得控除によって夫の所得が少なくなるので、所得税や住民税の負担が軽減されます。
■150万円
平成30年からは配偶者特別控除が大幅に拡大され、夫が満額の控除を受けられる妻の年収は150万円以下まで拡大されました。
妻が専業主婦でも年収150万円でも夫が受けられる税制上のメリットは同じになりました。
多くの人が誤解!実は「税金上の壁」はない?
妻の年収が一定ラインを超えることで、「収入が増えるのに手取りは減ってしまう」ことを「壁」と表現するのなら、税金上の壁はありません。
妻の年収が103万円を超えても150万円以下なら配偶者特別控除によって夫が受けられる税制上のメリットは変わりません。
年収150万円を超えても、配偶者特別控除は妻の年収が約201万円になるまで段階的に縮小していくので、夫の手取りが一気に減るようなことはなく、妻の手取りの増加がそれを上回るので世帯の手取りは増えていきます。
ただし、夫の勤務先から「配偶者に対する手当」が給与に上乗せされている場合、その支給基準は年収103万円以下であることが多いようです。基準を超えることで、手取りの逆転現象が起きる場合もあるので注意しましょう。
社会保険の壁は「2つの視点」でみる
壁を超えて働き損になるのを避けたいのなら、気にすべきは社会保険上の壁です。
妻が夫の社会保険上の扶養から外れて自分で社会保険料を負担するようになると、妻の年収が一定以上になるまで手取りの逆転現象が起きるからです。
社会保険上の壁としては、106万円や130万円が知られていますが、この2つの壁はそれぞれ別の視点から見ることが必要です。
被扶養者の視点でみる社会保険の壁
■130万円
夫の社会保険の扶養に入る、つまり「被扶養者」になるにはさまざまな要件がありますが、収入要件としては「年間収入130万円未満(60歳以上又は障害者の場合は、年間収入180万円未満)」であることが求められます。
社会保険でいうところの「年間収入」とは、過去における収入のことではなく、被扶養者に該当する時点及び認定された日以降の年間の見込み収入額のことをいいます。
税金は暦年(1月1日~12月31日)でどうだったのかという「過去」をもとに判断するのに対し、社会保険ではこれからどうなるかという「見込み」で判断します。
収入には給与収入だけでなく交通費などの手当も含まれます。また、税金上は非課税の所得となる雇用保険の失業等給付、公的年金の遺族年金、健康保険の傷病手当金や出産手当金も収入とみなされるので、注意してください。
被扶養者の認定をどの時点で、どんな基準で判断するかは、夫が加入する健康保険組合などによって変わります。
社会保険上の壁を気にするなら、収入の判断基準や認定を受ける際に求められる提出書類などを必ずチェックしておきましょう。
被保険者の視点でみる社会保険の壁
社会保険は「夫の扶養に入れるか?(被扶養者になる)」という視点のほかに、「妻自身が社会保険加入の要件を満たすか?(被保険者になる)」という視点も必要です。
■4分の3基準
社会保険の適用事業所で働く場合、パートタイマーでも1週間の所定労働時間および1か月の所定労働日数が社員の4分の3以上であれば被保険者として勤務先で社会保険に加入します。いわゆる「4分の3基準」です。
妻の年間の見込み収入額が130万円以上になり夫の社会保険の被扶養者から外れる場合、妻は同時に勤務先の社会保険加入の要件を満たしていることが多いと思います。
しかし時給が高いと、4分の3基準を満たすほど働かなくても年間の収入が130万円以上になることがあります。
この場合、妻は、夫の社会保険の扶養にも入れず、勤務先の社会保険にも加入できないので、国民年金の第1号被保険者・国民健康保険の被保険者となります。
■106万円
平成 28 年 10 月から厚生年金保険・健康保険の適用対象者が拡大となり、下記の要件をすべて満たす人は、上述の4分の3基準を満たさなくても被保険者となります。
1.週の所定労働時間が20時間以上あること
2.雇用期間が1年以上見込まれること
3.賃金の月額が8.8万円以上であること
4.学生でないこと
5.被保険者数が常時501人以上の企業に勤めていること※日本年金機構ホームページより(一部抜粋)
賃金月額8.8万円を年換算(105.6万円)して、「106万円の壁」と呼ばれるようになったようですが、実際には月額で判断します。
また、この賃金には交通費などの手当は含みません。
106万円の壁が社会保険上の壁になるかどうかは、妻の勤務先の社会保険によって決まります。パートで働く際は、社会保険加入の基準がどうなっているのか確認しましょう。
働き損はホントに損なのか?
社会保険上の壁を超えて働くときに、いくらまで働くことが正解なのか?誰しも気になるところでしょう。
しかし、家計にどんな影響があるのかは、今の手取りの変化だけで計れません。そして働く目的は、各家庭、各個人によって違います。目的も目標も違うのに「壁」だけで働き方を決めてしまうことはむしろリスクかもしれません。
悩んだときは、ファイナンシャル・プランナーに相談してキャッシュフロー表を作成してみてください。そうすれば、想像以上に人生の選択肢が増えたり、あなたにとっての正解が見えてくるかもしれませんよ。
こころFP事務所
代表 小林 美智子 氏
<保有資格>
CFPⓇ
1級ファイナンシャル・プランニング技能士
企業年金管理士(確定拠出年金)
住宅ローンアドバイザー