セカンドオピニオン提供で賃貸経営を効率化する~株式会社922 CEO 遠畑雅氏インタビュー
不動産業界といえば、まだまだ多くの無駄や古い商習慣が残り、アナログな面が目立つ。
株賃貸経営に長年関わってきた経営陣が2018年10月に設立した株式会社922では、賃貸経営のオーナーに、ITテクノロジーを組み合わせることで賃貸経営を見える化し、迅速な意思決定を可能にする経営サポートを提供している。
自ら200万円の自己資金から戸建て、アパート、マンションへ投資し、瑕疵物件で3,000万円の損失を出して自己破産になりかけながらも数十億円の資産形成に成功してサラリーマンをリタイア、株式会社922を立ち上げた同社CEOの遠畑雅氏にお話を伺った。
賃貸経営について頼れる先を持たないオーナーが多い
遠畑さんのご経歴を教えてください。
大学卒業後、NTTコミュニケーションズで10年ほど営業畑におりました。不動産投資を始めたのは、次に転職したシスコシステムズに勤めている頃です。家族のために、会社勤めではなく自分の身を守ろうと感じたことがきっかけでした。
人生の先を見すえて、不動産投資の道に入られたわけですね。
22、3歳で大学出て、そのときの思いで就職しましたが、10年、20年経ってそれが天職かとあらためて自分に問うたときに、そうではありませんでした。
世の中、別に不動産投資だけではないと思いますが、私の場合はなるべく手がかけずにレバレッジが効くのがいいと思いました。
そんなときにロバート・キヨサキの『金持ち父さん 貧乏父さん - アメリカの金持ちが教えてくれるお金の哲学』を読んで一念発起したんです。最初は副業としてスモールスタートで始めて、以来13年目になります。
上も下もきりがない世界ですが、景気の流れなどを見て、銀行が融資を引き締めたり緩めたりするサイクルにうまく乗り、目の前のチャンスにトライして、買った物件を売却して再投資することを繰り返してきました。
その経験を活かして会社を立ち上げたのですか。
当社CIOの清宮淳もIT業界で働きながら“サラリーマン大家”をしていたのですが、IT業界にいる者から見ると、不動産業界はいかにも古い慣習に縛られていました。
いまだにFAXで資料を送っていたり、重要でもない連絡も電話で来たり。電話が来ると思考が大体40分くらい止まりますから、本来は緊急のもの以外は極力避けるべきですよね。
紙のやり取りなども、管理会社からの明細をFAXで受け取ってExcelに打ち込み直したりしている。要するにアナログとデジタルの変換がまだできていない世界なんです。
こうした無駄をなくして生産性を上げていかないと業界は発展しないというのが二人の共通認識でしたので、2017年末にリタイアして事業計画を立てました。
今、40名様以上のお客様をサポートしており、サポート対象戸数で言うと3500室を超えます。
今、多くの一般層が賃貸アパート・マンション経営に取り組むようになりましたが。
2018年のスルガ銀行の不正問題、いわゆるスルガショックの2、3年前までは、銀行融資も緩く、そこそこの給料をもらっている人なら、ちょっとしたアパートなど簡単に物件を買えました。
でも、買った後で空室が埋まらないとか、思った以上に修繕費用がかかるとか、銀行との金利交渉のやり方が分からないという悩みを持っている人もたくさんいました。
究極的に言えば、賃貸経営の手残りをコントロールする方法は、売り上げを最大化するか、費用を最小化するかで、その両方をやるか、どちらかをやるかという選択肢です。勉強しておらず、ノウハウがない人にはそれがわからない。
ブームに乗って賃貸経営を始め、思いのほかうまくいかない現実に気づくわけですね。
皆さん、不動産業者から勧められて買って、その後は誰も頼る人がいないんです。管理会社は管理会社で、「10部屋あるアパートなら2、3部屋空いているのは当たり前ですよ」「退去後の修繕リフォームには1部屋50~60万かかるのは当たり前ですよ」とか、それなりの仕事のスコープの中でしか物事を見ないアドバイスしかしない。
だから皆さん、自分がやっていることが正しいのか間違っているのかという判断ができないんです。
賃貸経営で破綻する方を取材し、ブームに警鐘を鳴らすような報道もありますね。
われわれは全国を見ていますから、たとえばリフォームの相場なども、札幌ならこれぐらい、関東だったらこれくらいと見積書を見ればだいたい分かります。
最小限にとどめれば半額になるのに、クオリティが高すぎて金額が跳ね上がっているケースもあります。
たとえば家賃4万円のアパートで入居者が求めるクオリティを考えたときに、高級ホテルのようなきれいな内装にすれば誰もが入居したいでしょうが、リフォームに50万も60万もかけていたら、回収まで1年半かかります。単身の入居者なら2~3年で引っ越しますから、そんなことを毎回やったら全部持ち出しになってしまう。ハードウェアとしての提供される環境は、需要と供給の適切なレベル感で決まります。
当社では、市場適正なレベル感と金額条件にもとづいて収支計算の面からコンサルティングし、空室対策を提案しています。
不動産投資の始め方
かつての不動産投資は、富裕層が「余資」を運用する手段でした。
富裕層は、富裕であるほど、「守る」ことを考えます。アパートやマンションを経営するなんて面倒だという人もいますから、ファンドに投資して償還を得るか、少額でも毎月のリターンを得る道を選びます。
資産形成や節税の方法は不動産に限らないわけで、船や飛行機でも、スイスのプライベートバンクに預けるのでもいい。利回りは低いけど守れるわけですから。相続の状況にもよりますが。
そうではない「サラリーマン大家」が、物件探しで注意すべきことは何でしょうか。
不動産仲介会社の営業マンの立場で考えると、収入の源泉は物件販売による3%ほどの仲介手数料がメインです。結局、彼らにとってはいかに数多く売るかが重要なんです。
中には、顧客の人生にプラスになる、その顧客に向いている物件を探してくれる人もいます。そういう方がパートナーになってくれればすごく強いですね。
大手の不動産会社でも、そこに勤めている人はサラリーマンで大組織の歯車ですから、正直、お客様のライフプランについて深く考えていないような印象はあります。当然、1件の売上を大きくしなきゃいけないので、あまり細々した仕事はしてくれないのではないでしょうか。
私自身も不動産投資を始めたころは、都内や横浜の業者を回って、どこに勤めていて年収はいくら、10年後の目標などを伝えたものですが、それでちゃんとした物件を紹介してくれたり、長くお付き合いするにいたった方は、そのうちの20%ほどです。50社回って10社。私の10年後をちゃんと考えてくれる方はもっと少なかった。
どんなことに気をつけるべきですか。
不動産業者は絵に描いた餅というか、プラスの面しか言わないんです。「家賃収入が月間で100万円、銀行にローンを返済して経費払ったら月間で30万円残るので、年間で360万円残る良い物件です」などと言うのですが、それは100%満室の状態が365日続いたらという話で、シーズンごとに退去があることは言わない。退去のハイシーズンになると、入れ替えに伴うリフォームコストが結構かかるわけです。
稼働率100%はまずありえません。90%、85%に目減りしていくのをいかに抑えるかということが、初動では重要なんです。シミュレーションが甘いんですよ。いただいた情報で夢見ちゃう。
中には、月30万残る物件を10棟買えば年間で手残り3600万だという絵に描いた餅で計算して買い続けている人もいます。蓋を開けてみたら3600万どころか1000万も残らない。そんなことが本当にあります。
冷静に分析して、買うときはプロの意見を聞いたほうがいいですね。
スルガショックの影響は。
今では年収1000万というだけでは貸してくれません。不動産投資は不動産賃貸業ということですから、融資にあたっては、不動産賃貸業の知識や実績がどれくらいあるかを審査されます。
決算書を見れば売上高や最終利益、納税額が一目瞭然ですから、綿密にチェックされます。ルールに従って経理処理をして、ある程度の金額をきちんと納税していれば銀行の融資も下りやすい。
現預金がちゃんと残っていれば、無駄遣いをせずに賃貸業にフォーカスしていることもわかる。そういう経営の成績表を残すのが重要なんです。
株式会社922が物件選定をサポートすることもありますか。
基本的には、すでにお持ちの所有物件におけるコストダウンやバリューアップをご提案しているのですが、「こういう物件を提案されていて買おうと思っているのですが」という相談も受けています。
「この部分はちょっとリスクだよね」「駅から遠くて立地が悪いよね」といったことを、セカンドオピニオンとして、第三者の視点からコメントをさせていただきます。
良い面はここ、悪い面はここ、それでも買うなら、投資家として判断するならGOですねというような言い方をしています。
オーナーとは異なる目線で物件を見てセカンドオピニオンを提供
賃貸管理についても教えてください。
たとえばキッチンの水漏れ処理が遅れれば不満の原因になり、最終的には退去されてしまいます。
電話を何度も折り返したりするような対応ではなく、リアルタイムで連絡が取れる状態も作っていただきたい。
当社ではメッセージを送れるようなチャット機能を提供して、コミュニケーションのやり方を変えることをサポートしています。
どんなアドバイスをしていますか。
私たちが提供するのはセカンドオピニオンであり、オーナーさんとは異なる目線で物件を見ます。
こういうところでコスト削減できる、こういうところで賃料アップできると指摘して、実際に収入が改善していきます。
まずは現状の賃料明細書を見させていただいて、諸費用をチェックします。
たとえば管理費用。3~5%、6%が相場ですが、管理会社と交渉して1%でも下げられないか。1棟だけでは断られても、3棟、4棟持っていれば交渉圧力をかけられます。
われわれの場合は全国に40名様以上のお客様がおり、エリアによっては10棟とか20棟かたまっていますから、そこをまとめて管理替えや管理費用の圧縮の交渉を代行できます。
賃料100万円なら1%で1万円ですが、チリツモの世界ですから見直す価値はあります。
清掃なども、管理会社の委託している業者を直契約にすれば見直せます。シルバー人材センターなどに依頼すれば地域のシルバー雇用にもつながり、2万円かかっていた清掃費を1万円に下げられるかもしれません。
先の1万円と合わせて2万円のコスト削減になります。
あとはリフォーム費用。クロスの単価など、じつは地域で決まっているんです。平米単価850~900円でできるところもあるのですが、管理会社からの見積では1200~1300円になっていたりする。
100平米などになると相当大きな差になります。そもそも、本当に替える必要があるのか。クリーニングで済むこともありますから、現状をヒアリングすべきですね。
キッチンや洗面台などの水回りリフォーム費は高く、50万、60万の見積になりがちですが、中古品なら5万円で済むこともざらにあります。
最も多いご相談はどんなことですか。
お客様の困りごとで一番多いのは、やはり空室対策です。賃貸経営における最大の悪は、空室です。5万円の部屋が3ヶ月空いたら15万円の機会損失になる。
でも、10万円使って先に部屋を埋められれば、1ヶ月分を前倒しできるかもしれない。
ケチって手遅れになるのではなく、即断即決で進めるべきです。
人が動くのは春と秋という季節変動も念頭に置いて、即断即決で1ヶ月以内に決める覚悟で取り組まなければ、空室は埋まりません。
「もう半年も空きっぱなしで、管理会社に頼んでも改善しない」というので現地へ行ってみたら、これではダメだろう、ということがよくあります。
廊下が汚っぱなしだったり、建物前にごみが散乱して第一印象悪すぎたり。基本的な清掃からちゃんとやるべきです。
募集条件も、「以前は7万円で埋まっていたので今回も7万円にしたい」というのは、気持ちは分かりますが、周辺の賃料相場も考慮しなければなりません。
相場に合っていなければ勧めてくれる不動産業者が見つかりません。
最寄りの業者に電話して、これくらいの物件ならどれくらいの賃料になるか、現地リサーチして適正な賃料をセットすべきです。
最近はホームステージングが流行っています。リフォームした後にテレビやソファ、テーブルなどを置き、ショールームにしてカメラマンに撮ってもらうと、チラシの見栄えがすごくよくなる。
アイキャッチになりますから、早く決まることも期待できる。カップルやファミリーのお客さんの決定権者はほぼ女性ですから、フィーリングでパッといいと思ってもらうことがキーポイントなんです。
具体的な募集の仕方などについてもアドバイスされますか。
その物件の場所、ターゲットとなる入居者をペルソナ化するようなマーケティイングのお手伝いはしています。
たとえば有名中学校の学区内なら、そこに転居して子どもを通わせたいファミリー層を狙うとか、近隣に工場や大企業があれば、その総務部に社宅で契約可能とアピールしたり、というようなマーケティング上の戦略ですね。
1階がガレージで2階が居室というような特徴的な物件なら、1階をアトリエに使う方を狙ったり、自転車置き場に使う方、車が好きな方などをターゲットにするなど、物件の内容によってもマーケティング戦略も変わります。
アピールが悪いために、本来15万円の賃料をとれるのに10万円に設定していることもありますから、賃料明細を見て数字をまず詰め、空室対策をきちんとして稼働を100%に近づけ、物件を分析してその地域での位置づけを考えていきます。
半径10キロを見れば物件力は分かります。その市町村の人口の伸び、国道が通るとか、イオンができるといった再開発計画も確認します。
あと建物は劣化します。建てて15年たつと外壁が傷んで水漏れの原因になったり不具合が起きますので、修繕をいつやるかということも投資ポイントのひとつですね。
地震保険なども投資のひとつになります。札幌で起こった震度6の地震のときは、自分たちの物件を30棟まとめて申請して23棟が認可されました。そういう保険申請時のサポートもしています。
マネーリテラシーを身に着ける大切さ
賃貸経営で痛い目を見ないためには、どうすればいいのでしょうか。
お金というものは「稼ぐ」、「増やす」、そして最後に「守る」です。保有している間に100%に近い稼働率を保つにはどうすべきか。
たとえば駐車場を増設するとか、屋根に太陽光パネルを設置するとか、人通りが多く幹線道路に近ければ看板を設置するとか、自動販売機を設置するとか、付加価値をつけて収入をアップできる方法はいろいろあります。
これからは5Gの時代になりますので、場所によっては5Gのアンテナを増やしたいという需要もあるんですよ。
そういう付加価値のアドバイスまでしてくれる会社は、あまりないでしょうね。
ないと思います、費用をかけずに付加価値をつけられるのに持ち出し費用が発生してしまっているケースがよくあります。
たとえば自動販売機の設置は、土地を貸しているわけですからベンダーさんから初期費用の一時負担金をもらえるケースもあります。そういうことを知っている人はあまりいません。
また、入居者が家賃滞納した場合に備えて保証会社さんをつけ、極力被害を抑えるようなリスクヘッジも重要です。アパート経営、マンション経営は、決して簡単なことではありません。
働き方が変わる中で、副業として賃貸経営を考える方も増えそうですが。
トヨタの社長の年功序列や終身雇用をやめるという発言は、会社におんぶにだっこするのではなく、自己責任で資産形成しなさいというメッセージだと思います。
自分の10年後、20年後、家族のいらっしゃる方は子どもの将来や奥さんとの関係などのライフプランを振り返って、どれくらい資産が必要なのかを考えないと、時間はどんどん過ぎていきます。
高度成長期には定年は60歳で働く期間は40年間でした。今では定年は70歳とか75歳が定年になり、50年、60年働かなければなりません。
それでもその後に余裕をもてるかどうかは分からないのですから、早くからライフプランや資産形成について勉強しなければ間に合いません。
私は今年46歳ですが、年上の50代の方の知人はもうじき役職定年になるということで鬼気迫っています。
そうなってからでは若干遅い。子どもが大学に入るという世代が無理して難しい不動産物件を買って失敗するわけにはいきませんから、そういう方には、どちらかというと安全牌のルートの不動産投資しか勧めることしかできません。
勉強を始めるのは早いほうがいいと。
日本では読み書きそろばんの教育はきちんとしていても、お金のことを学ぶ機会がほとんどありません。
私も経営学の修士卒ですが、大学出てもお金のプロと自称するのははばかられるような経験と知識しかありませんでした。お金のプロフェッショナルには勝てません。マネーリテラシーをつけていくことはすごく重要です。
収入が多いからといってマネーリテラシーが高いわけではありません。
たいていの人は収入が増えると、やれタワーマンションだ、BMWだベンツだ、ビジネスクラスでハワイでも行こうか、となります。そんなことをしていたらお金はすぐになくなります。
マネーリテラシーを上げないと、いくらエリートサラリーマンでも安泰ではないんです。
それに比べたら、公務員で年収は高くなくてもコツコツやっていて30代後半で預貯金が2千万というような堅実な方のほうが銀行からの受けはいいでしょうね。
本記事を読んで、御社(株式会社922)に相談したいと考える方にメッセージをお願いします。
株式会社922では、ITによって収支計算を自動化したり、記録をデジタル化するサービスを提供しています。
賃貸経営で困っていること、悩んでいることを相談できる相手が近くにいない方はたくさんいます。
私自身、かつて法的に瑕疵担保を問えない物件を買って損をした経験をしたことがあります。でも、そんな場合でも解決策はどこかにあります。
抱え込まずにお気軽にご相談いただければ、法的に対処するのか、経営的に改善して対処するのか、お金を投入して対処するのか、いろいろなやり方を提案できます。
私の理想は賃貸経営の自動化です。もし賃貸業がお客様の天職ではなく、将来のための資産形成のツールでしかないのであれば、できるだけ実際の物件には触れず、月末の数字だけを見てプロに任せたほうが精神的にも楽で、労力もかかりません。そうして、できるだけ楽しく賃貸経営をしていただきたいと思うんです。
中には自分でリフォームしたり、現場の掃除をしたりする方もいるのですが、天職でないならお勧めできません。
社名 | 株式会社922 |
所在地 | M-Office 東京都港区赤坂6‐13‐12‐501 A-Office 東京都大田区東糀谷3-5-8 |
代表者 | 遠畑 雅 |
ホームページ | https://www.0922.co.jp/ |
取材日 2020年1月23日