国交省モデル事業で不動産のファンド化に成功~(株)Brain Trust from The Sun 代表取締役 大川桂一氏インタビュー
国土交通省の小規模不動産特定共同事業によって、小口の投資金を活用して地域の不動産業者が古民家・空き家などの様々な不動産活用に取り組むことができるようになった。
その第1号に登録された株式会社Brain Trust from The Sunは、投資家出資によって杉並区和泉の老朽アパート建替えなどをはじめ、積極的に事業展開を行っている。
国交省事業の活用の仕方やメリット、デメリットなどについて代表取締役の大川桂一氏に伺った。
国交省のモデル事業に採択
創業にいたる経緯を教えてください
もともとはアパートやマンションを建てる建築営業の仕事を4年間やって、不動産ファンドのバブルが始まったので、そこから収益物件や信託受益権のものをやるような仕事を2年くらいやっていました。
その後、勉強して不動産コンサルティングマスターやCFPをとり、コンサルティング会社での勤務を2、3年経てから独立し、当社を創業しました。
事業の紹介をお願いします
Brain Trust from The Sunという社名は、コンサルティングと太陽光発電という当社の事業からとったものです。
当社は資本金1200万円で平成24(2012)年8月設立し、宅建業、不動産免許と小規模不動産特定共同事業の一号の登録をしています。
メインの事業は不動産事業で、今、力を入れているのは、営農型の太陽光発電所や小規模不動産特定共同事業、シェアオフィスやバケーションハウスなどのファンド化です。
具体的な物件としては、鎌倉で簡易宿所をやったり、杉並区の老朽化アパートを建て替えたりしています。
太陽光発電所の安定した売電収入があるため、無理に営業せず、自分たちが本当に良いと思っているものをクライアントにお勧めしています。
また、公益財団法人東京しごと財団の平成27年からの高齢者職域開拓事業として、創業支援施設を京橋で運営しています。
小規模不動産特定共同事業とは具体的にどのようなものですか
国土交通省の「小規模不動産特定共同事業」のモデル事業として当社は採択していただいています。
小規模不動産特定共同事業は平成29年に始まったもので、新たに小口の投資資金を活用して地域の不動産業者などが古民家、空き家などさまざまな不動産の利活用に取り組むことが可能になりました。
以前は大きな資本がある不動産会社でなければ不動産特定共同事業は許可されていなかったのですが、小規模不動産特定共同事業では資本金1千万、純資産90%以上で登録できます。
出資を募って不動産を買いたい弊社のような不動産会社、不動産を有効活用したい地主、古民家カフェや宿泊事業を行いたいテナント、不動産事業に投資したい会社、クラウドファンディングで地域に貢献したい個人投資家がプレイヤーです。
投資マネーが入るところが従来の不動産ビジネスと違うわけですね
はい、この事業は、アパートやオフィスビルの不動産事業を拡大させたいと考えているが、自己資金や銀行からの借り入れでは限りがあるので、投資資金を活用することができないのかということから来ています。
古民家や空き店舗、老朽化したアパートなどは、銀行の融資がつかなかったり、テナントがつかないから再生できなくなるわけです。
都心の大きなサイズの優良物件なら、大きなファンドがプレイヤーになります。
つまりサイズが小さくて優良でなく、銀行という資金の貸し手が手を挙げづらい物件が、この事業の対象というわけです。
空き家問題は社会問題化していますね
今、2033年には空き家の数は2166万戸に達し、空き家率30%を超える見通しと言われていますので、10軒中3軒は空き家になってしまうと言われています。
一方で、今、新型コロナ感染症による入国制限のために訪日外国人はいなくなってしまいましたが、2003年に521万人だった訪日数は2017年に2610万人に増えており、2020年にはかなりの数になる見込みでした。
当社では、少子高齢化に伴う人口減少と空き家の増加という社会問題を、インバウンドやシェアリングエコノミーによって、不動産をシェアするという形で解決していきたいということに取り組んでいます。
空き家を利用してくれる外国人を増やす、もしくは国内の二拠点生活へのシフトに対応するという構想でしたが、今は、新型コロナウイルスの状況によって、ビジネスモデルの再構築を余儀なくされています。
インバウンド物件の一例としては、西鎌倉に賃料7万8千円ほどの古い物件を借り、リノベーションして、年間600万円ほどの売上をあげる宿泊施設を作りました。
それを皮切りに、今は3軒を借り上げており、さらに鎌倉市材木座に築100年、100平米くらいの2階建てを購入して、建物6千万円、リフォーム費用1200万円ほどかけてリノベーションして「琥珀-AMBER-」というレストラン付きの簡易宿泊所にしました。
2018年5月にオープンし、月平均82万円、2019年11月までで大体1560万円ほどの売上になりました。
利用客はインバウンド中心なのですか?
前の3軒は比較的アジアの方が多かったのですが、ここは意外と日本人のほうが多いです。今はコロナの影響で減っていますが、インバウンドは一時期ものすごかったですね。
テレビ朝日の『旅する相棒』という番組で水谷豊さんと木梨憲武さんに泊まっていただいたり、レクサスと弊社のコラボ企画で、レクサスを試乗してうちの宿に泊まりに来てもらうという企画なども実施しています。
そういった形で、農水省の令和元年度農山漁村交付助成金助成事業にも参加しており、鎌倉にある弊社の宿泊施設を中心に近隣の飲食店や農家さんをつなげて、鎌倉農泊協議会を立ち上げ、農水省に助成もしていただいています。
今はコロナの影響で低調ですが、うまくいっています。弊社の場合は借入をして古民家を所有していますので、投資家からの出資を集める必要は今のところありません。
ウィルスの影響が落ち着いたら琥珀も小規模不動産特定共同事業の一号事業にする予定です。
また、小規模不動産特定共同事業第二号事業というものがあり、第一号事業よりも複雑になりますが、特定目的会社(SPC:Special Purpose Company)を作って、その会社が小規模第二号事業者に業務を委託するという形になります。
物件を購入したり、テナントに貸して賃料を得たり売却したりするのも、二号事業者がアセットマネージャーとして行い、SPCに対して投資家が出資するという形です。
一号事業者では投資家を直接募集ができるのですが、二号事業の場合は四号事業者という媒介してくれる会社に依頼しなければなりません。
当社でも実際に杉並区和泉の物件を蘇生していますが、四号事業者に投資家の媒介契約を依頼し、投資家は匿名組合出資で出資金を集めています。
ノンリコースローンで銀行からもお金も借りています。
一号事業との最大の違いは、一号事業者では当社がオンバランスで資産を持つので、当社の他事業が不動産特定共同事業に影響を与えてしまうことがありえるのですが、当社と切り離してSPCが資産を持つ形にしてしまえば、当社の他の事業リスクと切り離せることになります。
「倒産隔離」というのですが、当社の他の事業のリスクを負わずに済むということが、小規模不動産特定共同事業の特例事業第二号事業のメリットです。
リスクを分散化できるわけですね
そうですね、弊社の小規模二号事業者としてのメリットとしては、運用期間中安定的なアセットマネジメント報酬を得ることができ、売却時には成果報酬がもらえるということです。
そのほか第一号事業の場合は、集められる資本は1億円までですが、特例事業では上限が10億円で、1個のSPCに対して1億円までなので、特例投資家というプロの投資家が入れば、より効率的に集められる金額も比較的大きくなります。
扱える資産が大きくなれば運用期間中のアセットマネジメント報酬も多くなります。
倒産隔離したほうがノンリコースローンを借りやすくなるので、レバレッジ効果もありますし、法律家や鑑定士、建築士といった取引先とのコネクションもできます。
逆に、デメリットは組成に費用と時間がかかるということです。
二号事業者、四号事業者、一級建築士に払う報酬が結構かさんだり、法律家にフィーを払わなければなりません。
弊社の場合は、国のモデル事業として実施できたので、専門家を派遣いただいて、うまく組成することができました。
この事業には、市場としてのコンペティターがいるのでしょうか
国交省ではコンペティターが出るくらいまで市場を成長させたいと思っているのでしょうが、まだそこまでいっていないですね。
不動産特定共同事業の条件は資本金1億円以上で、なおかつ監査も受けていないとできないのですが、三井不動産を筆頭に東京都内に130社もの会社が登録しています。
大資本がないとできなかったわけですが、29年12月に国交省が規制緩和して小規模不動産特定共同事業が創設され、同様の取り組みをできるようにはなりました。
弊社は第1号として登録し、まだ国土交通省の登録業者は今のところ第5号までしかいっていませんので、コンペティターはいないような状態です。
先日も、古民家を活用してカフェを開きたいという相談があり、相談者は自身で寄付金を募って古民家の購入費用やリノベーション費用を調達できました。
銀行からの借り入れ以外に、改修費用や不動産取得の資金を投資によって調達できれば、扱える案件は増えます。
要はリスクをとってくれる投資家頼みなのですが、日本にはそういうマインドがまだ少ないので、なかなか普及が進まないわけです。
小規模不動産特定共同事業を始めたいと思ったらどうすればいいのでしょうか
事業者になるための手続きは、国土交通省大臣と金融庁長官による登録を受けるか、または都道府県知事による登録を受けることです。
資本金は1千万以上、資本金または出資額の90%以上の純資産がなければできません、宅地建物取引業の免許も必要です。
投資家から受けることのできる出資の合計額は1億円以下、投資家1人当たりの出資額は100万円です。
特例投資家というプロの投資家であれば、1億円までは出資してもらえます。不特定多数の投資家から出資を募ることもできますし、身近な方から出資を募ることもできます。
そこそこの不動産屋さんでは、いい案件であれば、普段お付き合いしている投資家の中に1億のお金を出資してくれる方がいるでしょうから、敢えて複数の投資家と共同事業をする小規模不動産特定共同事業で、難しい登録書類を揃えてまでそれをやるかどうかという話です。
難あり物件のケースもあり、元本保証商品ではありませんから、その不動産会社に何かあったときに誰が担保してくれるのかということもあるでしょう。
出資金額が総額1億円までですが、東京では1億円だとなかなか良い事業はできません。
実際には、1億円の資金があれば土地を購入して、それを担保に3億円くらいの借り入れを起こすとすれば、銀行から借りられる可能性があると思うんですが、今までそういうことをやっていない不動産会社が新しい制度を使ってリスクをとるかといったら、あまりとりたがらないですね。
こうしたハードルがあり、なかなか普及していない現状があると思います。不動産会社が手間をかけてまでやる意味を見いだせていないということですね。
リスクをとれるかどうかということと制度自体がまだ一般化されていないからと
そうですね、とはいいつつ、国交省でもさまざまな啓蒙活動をしていますし、以前よりは注目されているとは思うのですが、ここにきて新型コロナの問題で、また普及が遅くなってしまうのではないかという気がしています。
国交省のパンフレットでは、小規模不動産特定共同事業の活用例として、投資家から出資を集めて空き店舗を借り、それをリノベーションして賃貸に出す、投資家に配当するという形をあげています。
でも、普通に店舗が成立する場所で出店ニーズがあれば、物販や飲食の会社は自分で調べて出店してしまいますよね。
リフォーム費用もありますので、実際に事業を行うテナントならともかく、賃貸収入だけだと、投資を回収するまで何年もかかることになり、投資家に配当できるのかという問題が起こりやすいと思います。
リフォームしてマスターリースとサブリースにする場合は、リフォームにかかった費用を回収しなければならないので、サブリース賃料から個人投資家に配当するのはなかなか難しそうです。
もうひとつの活用例は、貸すのではなく、売却するという場合で、売却益が出れば、配当できる可能性が高くなると思います。
土地の取得費用を投資家から集め、戸建て住宅や賃貸住宅を建てて分譲して、その売却益を投資家に配分するなら現実性が高いでしょうけれども、不動産特定共同事業者が投資家からお金を集める場合、わざわざ高い配当と組成コストを払ってまで小規模不動産特定共同事業ではやらないでしょう。
銀行からお金を借りられて目利きができる会社なら、あまり出資してもらう意味もないですよね。
ただ、銀行ローンだけではでは資金が足りない規模の物件をやる場合には、これを使う理由はあるかもしれないですね。
空いているオフィスビルを借りてシェアオフィスにして、賃料と稼働率をよくして配当するという活用例もあります。
これは現実性がありそうですが、自分でビルを買えるような人は、銀行から安く資金を借りれる可能性が高いので、投資家に支払う報酬が低くなければメリットがないのは同じです。
やり手の不動産屋が短期にバリューアップを完成させて、売却を実現し、出資者への配当を出せるのであれば成立します。
しかし、そんな物件にはなかなか巡り合わないので、普及が進んでいないのではないかと思います。
御社の場合は成功例ですね
そうですね、昨今は金融機関からお金を借りることが難しくなっているので、われわれ中小不動産のプレイヤーが小規模不動産特定共同事業を使う意義が出てきたと思います。
また、弊社はどちらかというと一号事業より難易度が高い二号事業でノンリコースを使って組成できているので、比較的、横展開をしやすい形にはなっていると思います。
小規模不動産特定事業では1人につき100万円までの個人投資家しか入れませんが、特例投資家というプロの投資家は上限1億円まで入れられるので、面白い不動産を購入することができ、SPCも10個まで作れるので、将来的にはそういう形にもっていきたいと思っています。
新型コロナウィルス感染症の影響はいかがですか
宿泊事業と貸しオフィス、セミナー事業などは直撃で打撃を受けています。宿泊施設のほうは3月までは貸し切り状態でしたが、4月は全然ダメですね。
今は貸し会議室を休業し、勉強のためのインプット期間にしています。
皆さんテレワークの場所がなくて困っているので、濃厚接触しないようにしてスペース貸しをしてお仕事をしてもらうように切り替えました。
宿泊も通常営業は自粛し、長期で借りてくださる方やテレワーカーのみに提供しています(現在は東京都の自粛要請により全面休業しています)。
そのように社会に合った形で営業体系を変え、売上が落ちているので無理をせず、セーフティネット四号認定を受けて融資を受けます。
今経営者がしておくべきことは、国の支援策を活用して借りられるのであれば借りておき、知識を仕入れて、しかるべき時期に手を打てるように準備をしておくことだと思います。
制度が分からずに使えないという経営者もいますので、僕が今できることとして、そういった制度の解説をFacebookやTwitterやYouTubeなどSNSで発信していきたいと思います。
従業員の方は何人ほどいらっしゃるのですか?
社員2人、あとはアルバイトが10人ほどいます。
雇用調整助成金では国が9割を補償してくれるといいますが、今頭を抱えている経営者の中には、その1割ですら厳しいという人もいると思います。
でも、会社も借りたお金で体力を削ってやっているのですから、経営者が悪い、国が悪い、自分たちは弱者で給付してもらって当然だという考え方では従業員としても人間としても駄目ですね。
こんな状況の中でも自分に何ができるかを冷静に考え、経営者の立場も考えて信頼関係を強化して、この状況をどう乗り切るか、好転したときにどうしたらよくなるか希望をもって考えてほしいです。
一方で、我々経営者はこの機会に雇用調整助成金を用いて社員のレベルアップを試みたり、ものづくり補助金や小規模企業持続化補助金などのコロナウィルス経済対策をうまく利用して、パンデミックを乗り切り、アフターコロナのために何をすべきか、従業員をどう守るか常に冷静に考え続ける必要があります。
社名 | 株式会社 Brain Trust from The Sun(ブレイン トラスト フロム ザ サン) |
代表者 | 代表取締役 大川桂一 |
創業 | 平成24年(2012年)1月1日 |
設立 | 平成24年(2012年)8月1日 |
所在地 | 東京本店 〒104-0031 東京都中央区京橋1-6-13 金葉ビルディング6/7F |
資本金 | 12,000,000円 |
宅地建物取引業免許 | 東京(1)98004号 |
住宅宿泊管理業者登録 | 国土交通大臣(01)第F00430号 |
小規模不動産特定共同事業登録 | 金融庁長官・国土交通大臣(1)第1号 |
事業 | 宅地建物取引業 ファイナンシャルプランニング、金融、経営、不動産のコンサルタント業務 発電事業、電気の売買に関する事業 損害保険代理店業務及び生命保険の募集に関する業務 |
コーポレートサイト | https://www.braintrust-from-the-sun.co.jp |
取材日:2020年4月13日