お金のストレスをなくす送金アプリ「pring」が見すえる“複業”時代~株式会社pring 荻原充彦氏インタビュー
「お金をやりとりする際のストレスをなくしたい」という思いから株式会社pringを起業し、個人間でお金を「おくる、もらう、はらう、チャージする、もどす」等の機能を持つアプリ「プリン」を開発した荻原充彦氏。
「これからは複数の収入源を持つマルチインカムが一般化する。そこでの決済や報酬の支払いに大きくかかわっていきたい」と自説を語る荻原氏にお話を伺った。
「プリン」はお金のコミュニケーションツール
アプリ「プリン」について教えてください
「プリン」は、友達や家族とメッセージを送るような感覚でお金のやり取りができるスマホアプリです。
チャット感覚でお金を「おくる、もらう、はらう、チャージする、もどす」という機能に加え、プラットフォーム上の投稿に対して、1円から応援(お金を送る)ができます。
アプリのトップページから相手を選び、送りたい・受け取りたい金額と、メッセージを入力して送信するだけです。
現金特有の気まずさを感じることなく、お金のコミュニケーションをお楽しみいただけます。
お店での支払いもQRコードで簡単に支払いができ、銀行口座と直接つながっているので、アプリにチャージするのも口座に戻して現金化するのもスムーズです。
3つのシンプルな機能とオシャレで使いやすいUIが特徴的で、おかげさまで、友達紹介などの口コミを中心に広まっています。
やりとりしたお金はいつでも、銀行口座に戻したり、全国に約25,000台以上あるセブン銀行ATMで、現金として引き出すこともできます。
「プリン」を開発した理由は?
個人のお金のやりとりをストレスなく行えるようにしたいということです。
個人間でのお金のやりとりは、意外とよくあるもので、たとえば弊社のホームページではこんな事例を紹介しています。
このほかにも、お金にまつわるストレスとしては、
「先月貸したお金を今さら返してとは言えない」
「今、手持ちがないってこの前も言われた」
「本当は1円単位で正確に割り勘したい」
「自分のお金なのにATMで手数料を取られるのは納得がいかない」
「飲み会の幹事では、いつも計算が合わない」
といったものなど数多く、日常生活のそこここに潜んでおり、積み重なると、人間関係に悪影響を及ぼしてしまいかねません。
そこで、「お金の通り道の摩擦をなくす」というビジョンを掲げ、18年3月に「プリン」のサービスを開始しました。
「プリン」を使えば、上で紹介したようなストレスも一発で解決できます。
どのような機能で解決していくのでしょうか
面と向かって、「お金を返して」と言うと気まずくなりますから、なかなか口に出せずにストレスになりますよね。
「今、手持ちがなくて……」とかわされて、結局回収できないこともあるでしょう。
たとえば遠方から来た友達と飲んだり、会食したりすると、なかなか普段会わない相手なので、お金の請求はさらにしにくくなり、自分が1,000円余計に負担したとして、相手が「後で払うよ」と言っても、次に会うのは1年後、ということってありますよね。
そのまま忘れ去られて、結局1,000円を負担したまま、というパターンはよくあるのではないでしょうか。
こういうことが積み重なると、せっかくの友情も薄れ、ストレスをなくすためにだんだん疎遠になってしまうかもしれません。
1,000円ぐらいいいか、ということになりますね
どうしても返してもらおうと思えば、電話なりメールなりで「この前の1,000円返して」と伝えるしかありませんが、それで相手が返そうと思っても、今度は現在の金融システム上、わずか1,000円を送金するのに手数料がかかることになり、どこまでも不便さがつきまといます。
「プリン」を使えば、アプリからのリクエストやチャット機能で、気まずさを感じることなくお金を請求できます。
たとえば、チャットで「この間のランチ代は2人で1,400円だったよー」と送って、700円を請求すれば、相手は「お金をおくる」の機能を使って700円を送る、というように簡単にお金をやりとりできます。
また、大勢での飲み会は幹事が全額を負担することが多いので、誰が会費を払ったのかがわからなくなりがちですが、やりとり履歴の機能を使えば、払った人と払っていない人の記録も明確に見える化できるので、幹事が泣き寝入りするようなことはなくなります。
「プリン」を使えば、このようにお金にまつわるトラブルが大きく軽減できます。
お金のやりとりが手軽になれば、社会はもっと円滑になると思います。
業務用の「プリン」も提供しているとのことですが
個人間でのやりとりの他に、法人向けの決済サービスは有料で提供しています。
業務用「プリン」は、24時間365日、法人から個人のスマホに送金できるサービスで、法人と従業員双方にメリットがあります。
法人視点では、経費・報酬などをすぐに従業員に振り込め、振込手数料を大幅に削減できるほか、電話番号の確認だけで送金できるため、業務の煩雑さが軽減されます。
従業員視点からすると、経費で立て替えたお金などもすぐ返って来るので、やはりストレスが軽減されます。
導入事例として日本瓦斯株式会社様があり、この会社では1,800人以上の従業員がいらっしゃいますので、業務を効率化できたことは大きな価値があります。
また、日本では、現時点では給与を電子マネーで支払うことはできませんが、今後、より規制緩和を進められて法改正が進み、電子マネーによる現金払いが解禁されれば、給与を「プリン」で支払う日が来るかもしれません。
事業者に「プリン」導入が進むと、従業員も必然的に「プリン」を使うことになりますから、当社としては、積極的に業務用「プリン」の導入を進めていきたいですね。
気軽に送金できることの社会的意義は大きいですね
現在、新型コロナウイルスの影響で外出を自粛する人がたくさんいますので、「プリン」で送金できる意義は大きいと感じています。
現に外出自粛が始まった4月から送金金額も伸びています。
ロンドンではもともとキャシュレス化が進んでいましたが、感染症対策のために、紙幣に触ることを嫌悪する傾向が生まれ、日本でも同様の動きがありますので、これがキャシュレス化を後押ししています。
これからタッチレスへと意識が変わりますから、来年以降、プリンの存在感はさらに高まると思っています。
新型コロナウイルスの影響でライブができないアーティストもいますが、「プリン」で好きなアーティストを応援できるそうですね
はい、このほど「プリン」はアイドル活動にエールマネー(応援金)を送ることができるサービスを開始し、ももいろクローバーZさんにも、「プリン」の「チーム」に参加していただきました。
「新型コロナウイルス感染症拡大防止のため、自宅での生活を余儀なくされている方々へ少しでも毎日の生活に笑顔や楽しみを提供できれば」という思いから、人気女性アイドルが多数所属しているスターダストプラネット様と提携しました。
「チーム」とは?
プリンの「チーム」は、1円からエールマネー(応援金)を送ることができ、動画、写真、テキストなどを自由に連携させて投稿できる“お金SNS”です。
アーティストはファンからのエールマネーやコメントを受け取ることができますので、活動環境や社会情勢に関係なく、アーティスト(アイドル)など才能にあふれた方々の活動が、ファンとつながり、応援される仕組みを実現できます。
既存の動画配信サービスでも似た仕組みはありますが、手数料が高く、配信者側の受け取り金額が少ないという問題がありました。
プリンの「チーム」機能では、9.5%という業界最安値のプラットフォーム(受け取り)手数料で、エールマネー(応援金)を受け取ることができます。
アーティストの活動にお金を払うことがまだ日本では根づいていないのですが、感謝の気持ちで対価を払うことは必要なことですから、エールマネーを定着させていきたいと思っています。
本業以外の副収入を得る人が今後確実に増える
御社のアンケートでは会社員の3人に1人が「本業以外の副収入がある」という結果が出ていますがかなり多いですね
複数の収入源を確保することが当たり前の時代が来ます。
正社員である意味が、これからはあまりなくなると思っています。
新型コロナウイルスの影響によってテレワークが普及しましたから、広い事務所を保有する意味があるのかという議論が沸き上がっています。
固定費を抱えるリスクが顕在化しているわけです。
正社員は減少し、力のある人が複数の会社から仕事を受注していくような働き方が普通になると思います。
これまでの日本では、正社員として多くの人員を抱え、都内一等地に事務所を構え、いわゆる「持つ経営」が長くもてはやされてきました。
会社としての勝ちパターンは、正社員にルーティンワークさせて利益を上げることだったわけですが、実際にはとっくの昔に形がい化しており、人手不足であるにもかかわらず、「働かないおじさん」が社会問題化している状態です。
どの会社にもいる存在ですね
出勤して朝10分だけメールチェックし、あとは5時までネットサーフィンをしているような“社内失業者”がいるとなにかで読んだことがあります。
本来、正社員は会社にとって利益を確保するためのものだったのですが、いつのまにか「9時~5時まで会社にいれば給料がもらえる」という勘違いが始まってしまったのです。
普通のサラリーマンは1日8時間、週40時間働くことになっていますが、ちょうど40時間におさまる仕事というものは、じつはそんなにありません。
そこで、2日でできる仕事を無理やりひき伸ばして1週間かけている人も多いわけです。
個人事業主に同じ仕事を週2日で委託し、成果に応じて報酬を支払うほうがはるかに効率的です。
複数の仕事をする若手の人たちが増えてくると
会社としては、成果を出すか出さないかで評価するしかないのです。
アフターコロナ、ウィズコロナの時代では、そのように「持たざる経営」にシフトしていくことになると思います。
固定費で一般的に高いのは人件費と家賃ですが、4月からの外出自粛要請以降、何もしなくてもこの固定費が流出し、会社から現金が流出しています。
必要以上に正社員を抱える必要はなく、業務を個人事業主や副業を行うビジネスパーソンに業務を依頼する会社が増えていくでしょう。
そのような流れの結果、“複業”が増えているのです。
とはいえ、個人事業主にも固定給に代わる安定した収入が必要ですから、業務で認められた正社員が業務委託にジョブチェンジし、週2日勤務して、そのほかは自分で“複業”の仕事を開拓していくという形が、これから増えていくのではないかと推察しています。
今、20代の人が、「フリーでぜんぜんいける」とフリーランサー志向が強まっています。
フリーランス、個人事業主が台頭していく中、「プリン」の決済機能によって、弊社も大きな役割を果たしていきたいと思っています。
荻原充彦(おぎはら・みつひこ)
大学卒業後、3年間の板前修行を経て、大和総研の情報技術研究所にて環境・通信分野に関する論文執筆・講演活動を行う。その後、銀行設立プロジェクトに参画し大和ネクスト銀行を立ち上げ。2012年からDeNAにてEC事業戦略室および決済代行事業にて新規事業の立案に従事。2014年にはメタップスに参画し、株式会社SPIKE代表として決済サービスSPIKEを3年で黒字化。2017年にみずほ銀行、WiLとともに株式会社pringを起業とともに、同社代表取締役CEOに就任し、現在に至る。
社名 | 株式会社pring(英語表記:pring Inc.) |
設立 | 2017年5月 |
経営陣 | 代表取締役社長 荻原充彦 取締役 山﨑祐一郎(株式会社メタップス 代表取締役社長) 取締役 久保田雅也(株式会社WiL パートナー) 取締役 柏谷邦彦(日本瓦斯株式会社 代表取締役専務) 監査役 原大輔 |
資本金 | 7億3,094万円 |
所在地 | 〒108-0073 東京都港区三田一丁目4番1号 住友不動産麻布十番ビル3階 |
主要株主 | 株式会社メタップス、株式会社WiL、日本瓦斯株式会社、伊藤忠商事株式会社、株式会社ファミマデジタルワン(ファミリーマートグループ)、SBIインベストメント株式会社、株式会社みずほ銀行、SMBCベンチャーキャピタル株式会社ほか |
コーポレートサイト | https://www.pring.jp/ |
取材日:2020年5月13日