特定調停とは?やり方は?費用や流れ、メリット・デメリットなど
ここでは特定調停とはどのような債務整理の手続きなのか、その特徴や、特定調停にかかる費用、やり方、具体的な手続きの流れ、メリット・デメリット、任意整理との違いなどをご紹介します。
特定調停という手続きを今初めて知ったという人にもわかりやすく解説していますので、参考になさってみてください。
特定調停とは?
特定調停は「調停」という名称がついていることからも分かる通り、裁判所を通した債務整理の手続きになります。
特定調停は債務者(お金を借りている本人)が簡易裁判所に直接申し立てを行って、債権者(お金を貸している人)と話し合いをする制度です。
申立てを行うと簡易裁判所が「調停委員」を選任します。調停委員は債権者が返済条件の軽減などに合意してくれるように仲裁役として働きかけてくれます。
裁判と聞くと法廷で争うイメージがあるかもしれませんが、特定調停の手続きは裁判所の小部屋で進められることになり法廷に出ることはありません。
なぜ裁判所が仲裁を行うの?
債務者が直接債権者に「利息をカットして返済期間を長くしてほしい」などとお願いしても、債権者が素直に応じてくれることはありません。
なぜなら、債権者としては法律に基づいて正式な融資を行っているわけなので、相談されたからといって優遇する理由がないのです。
しかし、このまま返済が滞ってしまい自己破産となってしまうと、元金すら返済されなくなり債権者も困ってしまいます。
そこで裁判所が双方の話を聞いて仲裁を行うことで、債務者と債権者の両方が納得いくような和解を目指すのです。
特定調停の手続きの流れ
特定調停の手続きの流れを知って、イメージを掴んでみてください。
1.特定調停の申立てに必要な書類を準備
特定調停以外の債務整理方法では、信頼できる弁護士・司法書士を探すことからスタートすることになりますが、特定調停では弁護士・司法書士への依頼は行なわず自分で裁判所に申立てをします。
特定調停の申立ては裁判所に行って行うのですが、直接行っても申立てることはできないので、まずは特定調停に必要な書類を用意することになります。
必要書類については「特定調停の申立に必要な書類は?」の項目で詳しくご紹介しますが、東京簡易裁判所に申立てを行う場合に必要な書類はこちらです。
・財産の状況を示すべき明細書その他特定債務者であることを明らかにする資料
・関係権利者一覧表
・申立手数料(収入印紙)
・予納郵便切手
・資格証明書
裁判所と聞くと厳しくて怖そうなイメージがあるかもしれません。
手続きは事務的に進みますが、雰囲気は明るい役所のような感じで、不明点も親切に教えてもらえますよ。
2.特定調停の申立てを行います
特定調停の申立てを行う裁判所は、債権者の事務所や営業所を管轄する簡易裁判所になります。(自分の所在地ではありません)
申立ての際に手数料も支払うことになり、1社あたり500円です。手数料は収入印紙で支払いを行いますので、債権者の件数分だけ購入します。
また債権者に郵便物を送るための切手も必要になりますので、予納郵便切手を債権者1社あたり430円分購入します。(後ほど追加で必要になる場合があります)
書類に不備がなく裁判所に特定調停の申立てが認められたら、債権者に申立書のコピーが郵送されます。
なお、この時点から調停が終了するまで、債権者は債務者に取り立てを行うことができなくなり、返済もストップできます。
3.申立人と調停委員の事情聴取期日
申立から約1ヶ月に、申立人(債務者)と調停委員による面談を行います。この面談を「事情聴取」、面談をする日のことを「事情聴取期日」と呼んでいます。
事情聴取には債務者と、裁判所から選任された2名の調停委員が参加します。
調停委員から借金が増えてしまった理由や、家計の状況、今後の生活の見込み、返済の希望などを聞かれることになります。
事情を全て説明して、債務者が無理なく返済していける内容で、かつ債権者が和解に乗ってくれそうな返済計画を立てていきます。
なお、調停委員によってはもっと毎月の返済額を増やすことを勧められたり、逆に債務者に明らかに返済能力がない場合などは自己破産を勧められることもあります。
必ずしも調停委員の言うことに従う必要はありませんので、自分が希望することはきちんと主張してください。また、調停委員のアドバイスにも耳を傾ける柔軟さも大切にしましょう。
4.第1回調停期日
事情聴取期日から2週間~1ヶ月後くらいに、第1回調停が行われます。
第1回調停は、事情聴取で提出した返済計画案を基にして債権者と返済計画を詰めていくための手続きで、申立人(債務者)と相手方(債権者)の両方が出席することになります。
最初に、債権者だけが呼ばれて調停委員から返済方針を伝えられることになります。ここでは債務者は別室で待機しておきます。
そのあと、債務者だけが呼ばれて調停委員から債権者の意向を説明されます。納得できたら改めて債権者も呼ばれて、ここで初めて三者(債務者、債権者、調停委員)が揃うことになります。
また、金融機関によってはこの第1回調停に参加しないことも珍しくありません。
来ない場合は調停委員が電話で交渉してくれるので、債務者が直接債権者と顔を合わせることもありません。
双方納得して返済方針が固まったら、裁判官と書記官に伝えることになります。協議内容を裁判官が確認して、書記官が「調停調書」という書類にして調停は終了します。
もし債務者の希望と債権者の希望が一致せずに調停不成立となった場合は、第2回調停、第3回調停・・・と回数を重ねることになります。
それでも合意できなかった場合は調停不成立として終了します。返済できない場合は別の方法(自己破産など)で債務整理を行う必要があります。
特定調停の申立に必要な書類は?
特定調停の流れがわかったところで、必要書類や費用などの諸条件を確認していきましょう。
まずは書類ですが、特定調停は法律に明るくない人でも進められる手続きなので、基本的には裁判所が用意している書類の必要項目を埋めていく形になります。
詳細は申立てを行う裁判所によって変わってきますので、ここでは東京簡易裁判所に個人が申立て行う例を解説します。
また、実際に東京簡易裁判所に提出する書類の雛形と記入例も掲載しておきますので、確認してみてください。
特定調停申立書(2部)
特定調停申立書は2部用意します(正本・副本)。
債権者が複数いる場合は、それぞれに2部ずつ必要となります。
債権者が5社の場合は5社×2部の合計10部ですね。
財産の状況を示すべき明細書その他特定債務者であることを明らかにする資料(1部)
債務者の生活状況や土地・建物などの資産、勤務先、給料、家族構成などをまとめた資料です。専用の雛形がありますので、項目を埋めていくことになります。
関係権利者一覧表(1部)
権利関係者一覧表は、債権者の名称、所在地、債務内容、担保の有無などを一覧にまとめた資料ですが、こちらも雛形がありますので、項目を埋めていくだけでOKです。
申立手数料(収入印紙)
申立手数料は債権者1社あたり500円になります。支払いは収入印紙で行いますので、必要分の収入印紙を購入します。
債権者が5社なら500円分の収入印紙を5枚(合計2,500円)購入してください。
ただし、借入額の元金が1,666,666円を超える場合は追納が必要になることもあります。
予納郵便切手
債権者に郵便物を送るために使います。
債権者1社につき430円分(84円切手5枚,10円切手1枚)必要になります。
5社の場合は2,150円分ですね。
こちらも追納が必要になることがあります。
資格証明書(1部)
債権者が会社などの法人である場合は、代表者名や本店所在地などが記載されている現在事項全部証明書または代表者事項証明書の提出が必要になることがあります。
これらの書類は法務局で自分で取得することになります。
ただし、提出を省略できるケースもありますので、必要かどうかを以下の調停受付に確認してみてください。
(TEL03-5819-0232)
特定調停にかかる費用
特定調停にかかる費用は、他の債務整理と比べると圧倒的に安く、
・申立手数料:500円
・予納郵便切手:430円
のみなので、債権者1社あたりに必要な費用は930円です。
債権者が5社なら合計4,650円です。
この費用の安さは、債務整理の方法として特定調停を選択する最大のメリットと言えるでしょう。
特定調停のメリット
特定調停で債務整理を行うとどんなメリットがあるのでしょうか
特定調停は費用が安い
特定調停は、弁護士・司法書士に支払う報酬がないため、任意整理など他の債務整理方法と比較するととても費用が安いです。
任意整理も比較的費用が安価な債務整理ですが、それでも1社あたり最低でも40,000円程度は必要になります。
特定調停なら1社あたり930円なので、激安と言っても良いくらいです。
調停委員が仲裁してくれる
特定調停では、申立は自分で行うことになりますが、債権者との仲裁は裁判所の調停委員が行ってくれるので、「債務者(個人)vs債権者(会社組織)」というような一方的な構図にはなりません。
交渉も調停委員が行ってくれるので相手も聞く耳を持ってくれますし、法律に疎い債務者ばかりが不利になることはありません。
取り立てがストップする
特定調停の申立が受理されると、その時点で債権者は債務者に直接取り立てを行うことができなくなります。特定調停が終了するまで返済もストップすることができるので、この時点から経済的にも精神的にも落ち着いて生活をすることができるでしょう。
ストレスが軽減された状態で特定調停の手続きを進めることができます。
任意の債権者を除いて債務整理ができる
特定調停では、自分が債務整理をしたくない債権者を除いて債務整理を行うことができます。
例えば、自動車ローンを組んでいる債権者に対して債務整理を行うと、車は引き上げられてしまうことになります。
この場合は、自動車ローン以外の債権者に対して特定調停を行えば、車に乗り続けることができます。
自動車ローンの返済は一切減額されることなく今まで通り継続されますが、他の返済条件が良くなることで返済しやすくなるでしょう。
なお、この特定の債権者を除いて債務整理ができるというのは任意整理も同じです。個人再生と自己破産は全ての債権者に対して債務整理を行うことになり、債権者を選ぶことはできません。
特定調停のデメリット
特定調停は費用が安く、申立て後には取り立ても止まるので、メリットが多いように感じられますが、デメリットもあります。
特定調停を行うとブラックリストに
これは特定調停だけでなく、任意整理・個人再生・自己破産でも同じなのですが、債務整理をすると必ず信用情報機関に事故情報が載ってしまうのでブラックリストとなります。
特定調停によってブラックリストとなる期間は「5年間」です。
この間は新たにローンを組むことができませんし、クレジットカード審査にも通りません。
また、信用情報からは5年で事故情報は消えますが、特定調停を行なった債権者の社内には半永久的に情報が残ることになります。
そのため、特定調停を行なった債権者からは今後何年経過してもお金を借りることはできないでしょう。
債権者と和解できないこともある
特定調停は裁判所を介しているとはいえ、債務者と債権者の話し合いによる解決になるので、条件が一致しなければ和解することはできません。
調停委員も債務整理に詳しい人が選任されるとは限らず、思うように手続きが進まないこともあります。
調停不成立となった場合は、債権者が裁判を起こして強制執行となることも珍しくないので、債務者は他の方法で債務整理を行うことになるでしょう。
こうなるとさらに費用と時間がかかってしまうため、最初から任意整理などを選択するケースも決して少なくはありません。
特定調停は手続きを全て自分で行う必要がある
特定調停では書類の作成をはじめとした手続きを全て自分で行うことになります。
法律知識がなくても申立てができるようになっていて、不明点は裁判所でしっかり教えてもらうことができるのですが、つまずいてしまうこともあるでしょう。
また、裁判所には平日の日中に最低2回は行くことになるので、仕事を休むことになる人もいます。
特定調停は取り立て、返済が止まるまでに時間がかかる
特定調停のメリットでもお伝えした通り、申し立てが受理されたら債権者からの取り立てが止まります。
しかし、今から準備を始めたとして実際に申立てができるまでにどれくらいかかるでしょうか。
1週間で書類を用意できて申立てできれば非常に早い方で、人によっては1ヶ月くらいかかることもあるかもしれません。
この期間は取り立てが続きますし、返済が遅れてしまったら遅延損害金が発生してしまいます。
任意整理・個人再生・自己破産であれば、弁護士・司法書士に委任するとすぐに取り立てを止めることができます。
債務整理を依頼したその日のうちに取り立ても返済もストップできることも実際にあります。
比較すると、よりスピーディに取り立ても返済も止めることができるのは任意整理・個人再生・自己破産ということになります。
返済が滞ると強制執行になる
特定調停の和解案としては、返済が必要な金額を3年~5年で返済する方法で話をまとめることになります。
しかし、万が一返済ができなくなった場合はどうなるのでしょうか。
和解が成立すると「調停調書」がまとめられるとお伝えしましたが、この調停調書には裁判所の判決と同じ効力があるため、債権者側が改めて裁判を起こさなくてもすぐに強制執行ができることになります。
つまり、調停調書の内容通りに返済が行われなかった場合には、債権者がすぐに給料差し押さえなどの強制執行を行うこともできるのです。
仮に任意整理であれば、調停調書の作成がないため返済できなくてもすぐに強制執行となることはありません。
特定調停を検討する場合は費用の安さだけで飛びつかずに、確実に完済できるかどうかを自分自身に問いかけなければいけません。
特定調停のよくある質問
最後に、特定調停のよくある質問をQ&Aでまとめます。
どれくらいの人が特定調停を選択してるの?
債務整理の方法として特定調停を選択している件数はそれほど多くはありません。
平成15年には537,071件の申立てがあったのですが、これをピークに徐々に落ち着いてきて、令和元年では2,992件のみの申立てとなっています。
▼特定調停の新規申立て件数
平成12年 | 210,866件 |
平成13年 | 294,485件 |
平成14年 | 416,668件 |
平成15年 | 537,071件 |
平成16年 | 381,503件 |
平成17年 | 274,794件 |
平成18年 | 259,297件 |
平成19年 | 208,360件 |
平成20年 | 102,688件 |
平成21年 | 56,004件 |
平成22年 | 28,229件 |
平成23年 | 11,382件 |
平成24年 | 5,514件 |
平成25年 | 3,849件 |
平成26年 | 3,371件 |
平成27年 | 3,078件 |
平成28年 | 3,090件 |
平成29年 | 3,394件 |
平成30年 | 3,363件 |
令和元年 | 2,992件 |
<出展>裁判所データブック2020
一方、任意整理の新規件数は年間2万件を超えるとも言われています。
この違いは、専門家である弁護士・司法書士に依頼することで確実な返済軽減を期待できること(不成立となりにくい)、煩雑な書類作成や手続きを任せることができる、すぐに取り立てと返済をストップできるなど、費用はかかるもののメリットも多いことが理由となっているようです。
債権者が複数の場合は、それぞれの地域の裁判所に申立てをするの?
相手方(債権者)が複数の場合は、いずれかの簡易裁判所に申立てを行うことで関連事件として取り扱ってもらえることがあります。
例えば、債権者Aが東京、債権者Bが埼玉の場合、東京簡易裁判所に申し立てを行うだけで良いということもあります。
申立てを行う簡易裁判所に事前に確認してみてください。
家族や会社に内緒で特定調停を行うことはできる?
できます。
調停委員や債権者が、債務者の家族や勤務先に報告をするようなことはありません。
ただし、裁判所からの郵便物(特別送達)が自宅に届きますので、この郵便物を見られてしまうとバレてしまうこともあるでしょう。
特別送達の送り先は自分で指定することができるので、友達の家などの設定することも可能です。自宅以外の場所に送ってもらう場合は裁判所に事情を説明することになります。
「関係権利者一覧表」を作成したいけど借入先が多すぎて自分でもよくわかりません
信用情報の開示請求を行いましょう。
⇒指定信用情報機関(JICC・CIC・全銀協)とは?開示方法は?実際に開示をしてみた
自分の信用情報には現在利用している消費者金融やクレジットカード会社などの全ての業者名や取引開始年月日が記載されていますので、取り寄せて確認してみましょう。
特定調停後に返済が厳しくなったら調停委員に相談できる?
特定調停後の返済については、調停委員や裁判所に相談することはできません。
調停委員は事件ごとに選任されて手続きが終わったら解散となるので、調停委員に相談することはできないのです。
特定調停後に返済が厳しくなった場合は、なるべく早めに債権者に相談してください。
特定調停と任意整理との違いが知りたい
任意整理は債務整理の中でも比較費用が安く、債権者を選択して債務整理ができる、和解成立後は3~5年で返済する所など特定調停と共通点も多い手続きですが、大きな違いもあります。
特定調停は本人が債権者と交渉を行いますが、任意整理は弁護士・司法書士に依頼して手続きも交渉も行ってもらうのが一般的です。
また、任意整理は弁護士・司法書士に依頼すると原則としてすぐに返済の催促が止まります。和解成立まで返済もストップできるので、比較的早い段階で借金のストレスから一時的に開放されることになります。
特定調停でも申立てが受理されれば返済・取り立てが止まるのですが、申立てができるまでの期間は自分次第となるので、時間がかかってしまうこともあるでしょう。
▼その他の特定調停と任意整理の違い
特定調停 | 任意整理 | |
裁判所を介する? | 介します | 介さない任意の交渉になります |
ブラックリストになる? | なります(5年間) | |
申立て人 | 債務者本人 | 弁護士・司法書士が代理人として申立てます |
取り立て・返済は止められる? | 申立て後にストップします | 弁護士・司法書士に委任後、すぐにストップします |
費用 | 1件あたり合計930円 | 1件あたり安くても40,000円など、専門家によって異なります |
どれくらい減額されるの? | 利息制限法の金利を超える分は減額されますが、元金の減額は期待できません | 利息制限法の金利を超える分は減額されます。将来利息もカット可能 |
調停・和解は成立する? | 債権者が同意しないケースもあり、調停不成立で終わることもあります | ほとんどのケースで和解が成立します |
手続き後、返済できなかったらどうなる? | すぐに給料差し押さえなどの強制執行となることもあります | 調停調書が作成されないため、すぐに強制執行することはできません。 万が一返済できなくなった場合は任意整理を依頼した弁護士・司法書士に相談することをおすすめします |
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