健保の高額療養費貸付制度でお金を借りる方法
医療にかかる費用は、治療後や退院時に窓口で請求されないとわからないものです。
入院してる本人は医療費がいくらかかるのか検討もつかない・・・なんてこともありますし、いざ支払いというときに「こんなにかかるの??」とビックリしてしまうことも実際にあります。
でも安心してください。日本の公的制度には医療費を大きく軽減してくれる「高額療養費制度」という支援があります。
高額療養費として支払われる金額を借りることができる「高額療養費貸付制度」もあります。
ただし、これらは公的制度なので健康保険料を払っていることが大前提ですし、利用するには申請が必要になります。
窓口負担を大幅に減らせる制度もあるので、この機会にぜひ知っておいてください。

高額療養費制度とは
この記事では、
・高額療養費制度
・限度額適用認定証
・高額療養費貸付制度
について解説しています。
まずは高額療養費制度について確認していきましょう。
健康保険での自己負担額は1割~3割
現在の日本では国民全員が国民健康保険や社会保険などの公的医療保険に加入することとなっています。この制度のことを「国民皆保険制度」と言います。
普段当たり前に使っている健康保険証ですが、1955年ごろまでは国民の3分の1程度は無保険者でした。
全国の市区町村で国民健康保険事業が始まったのが1961年で、今では保険証1枚で日本全国のどこの病院にかかっても自己負担額は総医療費の1割~3割となっています。
では残りを誰が払っているのかというと、みんなが納めている健康保険料が原資となっています。医療費はみんなで支え合いましょうという考え方なんですね。
★健康保険の窓口負担額
年齢 | 自己負担 | |
義務教育就学前 | 2割 | |
義務教育就学後~70歳未満 | 3割 | |
70歳以上75歳未満 | 現役並み所得者以外で、昭和19年4月1日以前生まれの方 | 1割 |
現役並み所得者以外で、昭和19年4月2日以降生まれの方 | 2割 | |
現役並み所得者の方 | 3割 |
高額療養費制度の内容
高額療養費制度は、医療費が高額になってしまった場合に自己負担を軽減する制度です。
★高額療養費とは?
高額療養費とは、同一月(1日から月末まで)にかかった医療費の自己負担額が高額になった場合、一定の金額(自己負担限度額)を超えた分が、あとで払い戻される制度です。
通常は医療費として支払う自己負担は1~3割なのですが、長期入院や手術となると、家計が苦しくなるくらいの金額になってしまうことがあります。
高額療養費制度は、一定の金額(自己負担額)を超えた分を、後から払い戻してくれる制度ということになります。
高額療養費制度は誰が利用できるの?
高額療養費制度は、公的医療保険に加入していれば利用可能となっています。
公的医療保険 | 加入者 |
健康保険 | 会社員など |
共済組合 | 公務員、教職員 |
船員保険 | 船員 |
国民健康保険 | 自営業者、専業主婦など(上記以外) |
※この他にも協会けんぽ、健康保険組、退職者医療制度などもあります。
誰しもいずれかに加入していることと思います。つまり、高額療養費制度はほとんどの人が利用できる制度ということになります。
一定の金額(自己負担限度額)っていくらなの?
高額療養費制度では、一定の金額(自己負担限度額)を超えた金額が払い戻されます。その「一定の金額(自己負担限度額)」は、年齢および所得によって変わってきます。
国民健康保険に加入している70歳未満の方を例に解説します。
基準所得額 | 自己負担限度額 |
901万円超 | 252,600円+(総医療費-842,000円)×1% |
600万円超~901万円以下 | 167,400円+(総医療費-558,000円)×1% |
210万円超~600万円以下 | 80,100円+(総医療費-267,000円)×1% |
210万円以下 | 57,600円 |
住民税非課税世帯 | 35,400円 |
例)基準所得額が210万円超〜600万円以下で、総医療費が50万円だった場合は?
80,100円+(50万円-267,000円)×1% = 自己負担限度額となるので、
80,100円+2,330円 = 82,430円
82,430円が自己負担額となります。
50万円-82,430円の417,570円が後から払い戻されることになります。
(数字は一例です。正確な金額とは異なる場合があります)
高額療養費制度の対象になる医療費は?
高額療養費として認められる医療費は以下のようなものです。
・院外処方で支払った費用(お薬代)
対象にならないものはこちら。
・差額のベッド代
・シーツ、病衣代、おむつなど
・診断書代
・保険適用外の診療にかかった費用(先進医療など)
医療費は世帯で合算できる
被保険者とその被扶養者で構成される世帯であれば、医療費を合算できる「世帯合算」制度もあります。
例えば、お父さんが治療・入院を行った同月に、子供が歯医者に行って、お母さんが風邪で診察・薬を処方されたなどのケースでは、医療費を合計すると被保険者の自己負担額を超えることもあります。
こういった場合も高額療養費制度として払い戻しを受けることができます。
高額療養費制度の申請方法など
高額療養費制度は申請が必要な制度です。
流れとしては、
↓
2.高額療養費制度を申請する
↓
3.払い戻しを受ける
という形になります。
高額療養費制度の申請方法は?
加入している保険の窓口に直接行くか、郵送で行います。
たとえば国民健康保険に加入しているなら、市区町村の役所にある国民健康保険課の窓口に行きます。社会保険の場合は、勤務先に確認してみて下さい。
請求時に必要な書類は加入先によって異なりますが、医療費の領収書、申請書などになります。
加入している保険窓口に問い合わせてみて下さい。
高額療養費制度の申請には期限がある!
高額療養費制度は、医療機関で受診をした「翌月の初日から2年間以内」に申請をする必要があります。
高額療養費制度の払い戻しはいつ?
請求から払い戻しまでは3か月以上かかることもあります。さらに時間がかかってしまうこともあるので、早めに請求するようにしましょう!
払い戻しは口座振り込みとなります。
高額療養費制度は「同一月の医療費」で計算される!
高額療養費制度を利用する際は「同一月の医療費」が対象となることを絶対に忘れないでください。
通院、入院時によくあるのですが、月をまたいでしまうと払い戻しがされないケースもあります。
・1月に10万円の医療費を支払った場合
自己負担分との差額の42,400円が払い戻される
・1月に5万円、2月に5万円と月をまたいで支払った場合
合計額は10万円ですが同一月ではないため高額療養費とはみなされず、払い戻しはない
・1月に10万円、2月に10万円支払った場合
1か月あたり42,400円が払い戻されるため、合計84,800円が支給される
また、高額療養費の支給が過去1年間に3回以上あった場合は、4回目から「多数該当」となり、さらに負担額が減ります。
窓口での支払い負担を減らすことができる限度額適用認定証
高額療養費制度は後から払い戻しを受ける支援制度なので、医療費の総額を窓口で1度支払わなければいけません。
仮に医療費が100万円かかってしまったとしたら、1度100万円を病院に払わないといけないんです。
自己負担分以上の金額は後から戻ってくるとしても、一時的に大金が必要になるのは負担が大きいですよね。
そこで覚えておきたいのが「限度額適用認定証」です。
限度額適用認定証があれば、窓口で支払いをするときから高額療養費制度が適用されます。
そのため、支払う金額は自己負担分だけで良いことになります。
・高額療養費制度では?
窓口で1度50万円を支払って、約3か月後に自己負担額を超える417,570円が支給される。
・限度額適用認定証があったら?
窓口での支払いが自己負担額の82,430円となる!
高額療養費制度の対象とならない費用があれば窓口負担額も増えますが、それでもかなりの額の支払いを抑えることができます。
限度額適用認定証はどこでもらえるの?
高額療養費制度と同じく、加入している保険の窓口に直接行くか、郵送で申請を行います。窓口であれば即時発行してもらうことができます。
必要書類は限度額適用認定証の申請書、保険証、本人確認書類など。詳細は加入先にお問い合わせください。
被保険者が入院中で窓口に行けないときなどは、代理で申請することもできます。代理申請の場合は委任状などが必要になる場合があるので、必ず窓口に問い合わせてから行きましょう。
限度額適用認定証はいつ提出すればいいの?
限度額適用認定証があっても医療機関に提出しなければ総額を請求されてしまいます。
ですので、限度額適用認定証は「できるだけ早く」提出をしましょう。むしろ早ければ早い方が良いです。
入院することが事前にわかっていて、入院前に限度額適用認定証を用意できたら、まだ入院してなくても提出します。
事前に提出しておくことで、外来時の医療費が高額になってしまったときにも高額療養費が適用されます。
入院中に届いたら、届いた時点で受付窓口に持って行ったり看護師さんに聞くなどして早めに提出します。
退院に間に合えばいいかと思っていると、月をまたいでしまうこともあります。また、退院をしてしまったら限度額適用認定証が受けられないこともあります。
どんなに遅くても、「入院請求書ができる前」に提出してください。
高額療養費貸付制度なら無利息で医療費を借りられる
高額療養費制度はとてもありがたい制度ですが、請求から3か月以上待たないと差額が戻ってきません。
でも、入院のために仕事を休んでいたりすると高額療養費制度の支給を待てないこともあります。
そういうときに利用したいのが「高額療養費貸付制度」です。
高額療養費貸付制度は、高額療養費制度によって払い戻される予定の金額の8割(国保は9割)を、無利息で借りることができる制度です。
高額療養費制度との使い分け
高額療養費貸付制度は医療費の総額がわからないと借り入れできないので、病院窓口では1度総額を支払うことになります。
でも、それだけだと高額療養費制度と同じことになりますよね。
高額療養費制度は申請から支給までに3か月以上かかることもありますが、高額療養費貸付制度は2~3週間程度で借入できます。
高額療養費貸付制度の使いどころとしては、「高額療養費制度でお金は戻ってくるけど、3か月以上先だと遅すぎるとき」となります。
例えば、退院時に現金が用意できなかったため病院にはクレジットカードで支払ったけど、翌月末には引き落としがかかるから高額療養費の支給だと間に合わないときなどに便利です。
高額療養費貸付制度でお金を借りる方法
高額療養費貸付制度は、申請が必要な借り入れ制度となっています。
高額療養費貸付制度の申請方法は?
加入先の保険の窓口に直接行くか、郵送での申請となります。
必要な書類は申請書、医療費の請求書や龍収書、それから借用書など。詳細は加入先にお問い合わせください。
いくらお金を借りられるの?
高額療養費制度で戻ってくる金額417,570円の8割である334,056円
国保の場合は9割の375,813円
お金はいつ受け取れるの?
申請から2~3週間ほどかかります。受け取り方法は口座振り込みになります。
返済はどうするの?
高額療養費貸付制度で借りたお金は返済する必要がありません。
なぜなら高額療養費貸付制度は、高額療養費としてあとから払い戻される金額の8~9割を前払いしてもらう制度だから。
高額療養費制度で相殺という形になります。
払戻金の残りである2~1割も後から戻ってきます。なお、払い戻しが完了するまでは3か月以上かかることもあります。
まとめ:高額療養費制度は申請ベース!
こういった制度があることは、親切な病院であれば診察中に教えてもらえることもあります。
お医者さんの方から「医療費が高額になるので高額療養費制度が利用できるように、入退院が同一月になるように調整しましょう」などと言ってもらえる場合もあります。
ここまで見てきたとおり、医療費を支払う前と後では利用可能な制度が異なります。
特に事前知識と前もって準備が必要なのが窓口負担額を大きく減らせる「限度額適用認定証」ということをぜひ覚えておいてくださいね。
最後に高額療養費制度、限度額適用認定証、高額療養費貸付制度をまとめます。
高額療養費制度のまとめ
医療費が高額になってしまった場合に自己負担を軽減する制度。自己負担以上の金額が後払いで戻ってくる。
・対象になるのは保険が適用される診察代、入院費、手術費、薬代など
・「同一月」の医療費で計算されるため月をまたがないように注意
・申請方法は加入先保険の窓口か郵送
・払い戻しは申請から3か月以上先になる
・申請期限は受診の翌月初日から2年以内
高額療養費制度は後からお金が戻ってくる制度なので、窓口負担は医療費全額になります。
そのため窓口支払い時までにまとまったお金を用意しておく必要があります。
限度額適用認定証のまとめ
限度額適用認定証を用意しておけば、病院の窓口で支払いをするときから高額療養費制度が適用される。
・申請時に必要書類は限度額適用認定証の申請書、保険証、本人確認書類など
・認定証の医療機関への提出は早ければ早いほど良い!
正確な入院費用や手術代などは退院するときでないとわからないものです。そのため、入院している本人も家族もとても不安になることと思います。
限度額適用認定証があれば窓口負担が自己負担額+食事代や差額ベッド代などの対象外分のみになるので、最もお金の不安を減らせる方法と言えます。
高額療養費貸付制度のまとめ
高額療養費制度によって払い戻される予定の金額の8割(国保は9割)を無利息で借りることができる制度。
・申請から2~3週間程度で口座振り込みで受け取る
・返済不要(高額療養費制度で相殺)
高額療養費貸付制度は高額療養費制度として払い戻される金額の前借りと考えて下さい。
窓口では総医療費を全額負担して、それから高額療養費が支給されるまでの間に無利子で借りられる制度です。
返済の心配が不要な借り入れという点ではとても安心ですが、窓口での負担は医療費全額ですし、申請から入金までは2~3週間かかります。
この記事の監修者・専門家
